第90話 傭兵の街

石畳の敷かれた街に入る。

城壁と同じように手入れがされていないのか、所々石の隙間から、雑草が力強く生えていた。


そして、何かが身体を通り抜ける違和感を感じる。

私は足を止め、辺りを見渡した。


都市のメインストリートのようで、商店やまばらに行き交う人々が視界に映る。

全体的に年月を感じる建物以外は、特に何も変わった事のない街の風景だ。


気のせいかと思っていると、フィーナに手を引かれた。


「くーちゃんが、領域に入ったけど心配ないって言ってるの」

「…領域?」


聞き返すが、フィーナは困った顔をするだけであった。


クロードは、フィーナの時間を大切にしたいようで、戦闘以外で出てくる事は滅多にない。


くーちゃんが出てこないという事は、気にする程の事でもないのかな。


「名無しさん、どこに行きますか?」


大きなリュックを背負ったルルが、休みたいですと漏らす。


「そこの酒場で食事をしながら、この街の事を聞きましょうか」


城門をくぐって、左手に見える建物を指差す。

店先の大きな看板で、自己主張をしている酒場だ。


看板には「食事処 酒場 はじめての方はまずうちに!」と書かれていた。


商魂たくましいなと思いながら、店主の狙い通りに店の中へと誘われる。


店内は広く、カウンターとテーブルに分かれていた。

客は1組だけのようで、3人の武装した男達と赤髪の町娘の服装をした女が、楽しそうに談笑している。


男の一人は、頭から耳を生やした獣人であった。

ルルは足を止め、興味深そうに見ているが、その表情は深く被ったローブに隠されている。


カウンターの奥には、30代に見えるスレンダーな女性が暇そうに立っていた。


私はカウンターに座ると、荷物を降ろしたルルとフィーナが、ローブを深く被ったまま私を挟むように両側に座る。


「いらっしゃい」


カウンター越しに、女性が笑顔で出迎える。


差し出されたメニュー表を見て、


「葡萄酒を1つ」

「昼間からお酒ですか…ルルも同じのを」

「わたしはミルク」


それぞれ、好きな飲み物を注文する。


「お任せサラダ食べたい人?」


両側で手が挙げられたので、3人分注文する。


今まで盗賊の仕事で蓄えた銀貨や銅貨があるが、メニュー価格を見る感じ、生活には当分困りそうもないなと思いながら、銅貨を払った。


それぞれが食べたいものを注文すると、最初に注文した飲み物が出てくる。


奴隷紋の刻まれた右手で、葡萄酒を口に近づけ、味を楽しむと、


「この街は、初めてみたいね?」


俺の右手を見た女性店員が、話しかけてきた。

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