第79話 ひきこもりエルフ

荒れ果てた荒野を、車輪が回る。

4頭の大型の馬に引かれる馬車と、連結された3つの檻。


隊列を組み、護衛する傭兵達。

檻の中からは、時折、すすり泣く人の声が漏れる。


人売りの行商人だ。


それを、遠くの岩陰から観察する男達。

私はその中にいた。


「当たりですかね?」

「護衛の数が多いが、当たりだ」

「ここまで出てきた甲斐があったぜ」


私の言葉に、盗賊達が答える。


私が来てから、成功率を上げた盗賊団の支配地域は森から北へと広がっていた。


支配地域が広がるというのは、盗賊団にとって良い事かというと、全てがそうではない。


危険地帯には、行商人が寄り付かなくなるのだ。

だから、こうしてまた北へと進んでいる。


「超一流か、三流のやり方ですね。ルルは賛成しません」


洞窟の前に家を建てる為、留守番をしているルルの言葉だ。


このまま支配地域を広げれば、大規模な討伐軍と当たる事になる。

そこで、死ぬのが三流という事だ。


「護衛が多いんですが、名無しさん…」

「…問題ないですよ」


屈強な男達が、慣れない敬語を使い、少女にしか見えない私に頭を下げる。


先生、お願いします!


というのが、ここで得た私の立場だ。

盗賊達も、無駄に死にたくはないらしい。


岩陰から、姿を出し、護衛の数を確認する。


10…20…30…

よほど価値あるものを、積んでいるようですね。


まだ、こちらに気づいた様子のない隊列を観察する。

私は腰の剣に手をかける。


生き証人がいるから、切り札を見せる訳にもいかない。

ただ、剣術で蹂躙するだけだ。


私は大地を蹴った。


……

………


横たわる最後の一人に、剣を突き立てる。


縮地で隊列のど真ん中に潜り込み、あとは動くものを斬り捨てるだけの簡単な仕事だった。


私が手を挙げると、遠くの岩陰からガラの悪い男達が、駆け寄ってくる。


先生、ありがとございしたー!


そんな声と共に、盗賊達は馬車の荷物を漁る。


連結された檻の窓を覗いた盗賊は、男と女が大量だと喜びの声をあげていた。


盗賊の支配下の村に労働力として送られるか、何人かの女は本拠地で盗賊達の慰みものになるのだろう。


「こいつは大当たりだぜ」


そんな事を考えていると、最後の檻を覗いた盗賊の呟きが聞こえた。


何が大当たりなのかと、檻の窓を除いてみると…


そこには、銀髪の美少女がいた。

そして、彼女の耳は人間と違い尖っている。


「…エルフ?」

「いや、こいつはハーフエルフですぜ。砂漠との境目にこいつらの都市や村があるんですが、ひきこもりエルフって呼ばれるくらい外には出てこないんですわ」

「確かに耳の長さは、人間と違いないですね」


何が大当たりなのか見当がつく程、喜ぶ盗賊達を尻目に銀髪の美少女を見る。


彼女の瞳は恐怖に染まり、何かを繰り返し呟いていた。


この美しい顔…珍しい耳…

…欲しいな…


「この娘は、私が貰いますね」


おまえ達に集団で、壊されるのは勿体ない。


「そりゃないですぜ、名無しさん」


一人の男が不満を口にすると、便乗した何人かの男達がふざけんなと罵声を飛ばす。

そして、付き合いの長い何人かの男達は、青ざめた顔で下を向いていた。


私は腰の剣に手をかける。

傭兵達の血溜まりの中に、新しい仲間が追加される。


「私が貰いますよ?」


私は笑顔で、お願いをした。

私のお願いを聞いて貰えるまで…。

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