第78話 一年後

あれから一年近く過ぎた。


カレンダーもなければ、日にちの感覚も不確かだが、ステータス画面は、16歳と表示されている。


俺とルルは相変わらず盗賊団の洞窟で、その日暮らしをしている。


というのも、200人規模のこの盗賊団の居心地は、悪くなかったからだ。


いくつもの村から、物資が安定的に手に入る。

中には、盗賊団の隠れ蓑となっている村もあった。


そして、盗賊の生き方に慣れているルルは、快適そうであった。


「おい、名無し。新しい女が入ったが、使うか?」


盗賊の男が、外で空を眺めている俺に声をかける。

この盗賊団は、大きい仕事以外は各自が好きなように仕事に出ていた。


「いや、いいですよ」


使うか?というのは、そういう事である。

何ヶ月かして、ようやく俺が男だと理解された結果だ。


背は伸びてないんですけどね…。


「たまには、使ってきてくれないと、ルルの身に危険を感じます」

「ああいう風に集団で使うのは、趣味じゃないんですよ」

「そうかい、邪魔したな。また仕事の時は頼むわ」


男は立ち去る。

これから、お楽しみなんだろう。


「随分、落ち着いた口調に変わりましたね?」

「…そうですか?」

「ルルはこっちの名無しさんの方が、好きです」


落ち着いたのは、ルルのせいなんだけどね…。


ある日の仕事を思い出す。


……

………


それは、40人程で新しい村を襲った時だった。


みんなどこかで、いつものような簡単な仕事だと舐めていたのだろう。


新しい村は、落ち延びた傭兵が作った村だった。

村の中で乱戦になり、斬り殺される盗賊達。

そして、後方に残っていた俺とルルに降り注ぐ矢の雨。


とっさに土の壁を作ったが、運悪くルルは腕に矢を受けた。


それを見た俺は…


「メテオ…」


乱戦になる中、俺とルル以外が、消し飛んだ。


…レベルが上がりました。


40を超えた辺りから、上がりにくくなっていたレベルが久々に上がる。


俺は嬉しさで、笑みをこぼす。

ルルは初めて、怯える目で俺を見ていた。


そして、口を開くと、


「名無しさんは、抜き身の刀のようです…」


矢を自分で引き抜いたルルは、哀しげに呟く。


俺は黙ってそれを聞きながら、魔素を右手に集めると矢を受けた腕へと向けた。


彼女はまた怯えた目で、身構える。


「…俺に回復魔法は、使えないかもしれない」


医療の知識がない俺には、治すというイメージが欠けていた。

ルルの腕は、変わる事なく服を血が染める。


旅袋から、ポーションを取り出し、ルルの腕へとかける。

行商人から奪ったポーションだ。


エリーから、錬金術を無理にでも学べば良かった。


「…抜き身の刀か」

「なんの躊躇もなく、そんな力を使う名無しさんを…ルルは怖いと思ってしまいました」

「…気をつけるよ」


しばらく、ルルのあの顔、あの目が頭から離れなかった。


エリーとマリオンの頃の自分を思い出す。


あの時の俺は、自分を抑えられてたじゃないか。

力を手に入れて、それに酔っていたのか?


ルルの怯えた瞳が、胸を刺す。

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