第70話 狩りと狩り

あれから、一ヶ月が過ぎた。


「こいつは美味いな。酒によく合う」


盗賊にしては、顔立ちの整った親分が焼けた肉をつまむ。


「交換はその酒で」

「ほらよ」


同じく焼けた肉をつまむ俺は、酒を要求する。

親分は、俺のコップへと酒を注いだ。


何度か集落の中心で、こうして食卓を囲むうちに、この親分の事がわかってきた。


この親分、まったく親分らしくないのだ。

意見を求められれば、指示をするが、余計な口出しはしない。


誰に対しても偉そうな態度に見えるが、単純にへりくだる態度を取らないだけだったりする。


嫌味がないのだ。

まるで独りで、自由に生きているかのように。


「あっしの冷やしが、いいからですかねー?」


赤髪のモヒカンが、会話に混ざってくる。


「ルルの血抜きと解体もな」

「そりゃ、確かにな」


俺が、ルルの事も忘れるなと含ませると、青髪のモヒカンが同意した。


こいつらは、ただ偉そうなだけのバカな気がする…。


そして、話題のルルは少し離れた木の陰で、肉を食べていた。


他にも集落の盗賊達や女が、好きな場所で肉を食べては談笑している。


盗賊は40人程、女は10人と少しだろうか。


「けんど、名無しのおかげで、毎日肉が食べれるべ」


初めて村に来た時から、肉を焼いている男が言う。


肉を交換してくれなかったこいつを、俺は焼肉係と名付けていた。

もちろん、心の中でだ。


そして、焼肉係の言う通り、俺とルルはほぼ毎日狩りに出ては、獲物を獲ってきていた。


今までは、探し回っても見つからなかったり、ホワイトウルフに襲われたりで、安定しなかったらしい。


そして、過去に1人の犠牲を出したホワイトウルフを、皆が食べている。


俺にとっては、魔物も猪も変わらない。

解体はルルができるし、熟練の焼肉係がいる。


あとは狩ってみて、美味いかマズイかだ。


猪と違う癖はあるが、これはこれで美味しいな。

もちろん、都市で育てられた牛肉が至高なのは、言うまでもないが…。


味を噛みしめていると、


「酒も少なくなってきたし、襲いに行くか」


親分は言った。


「いつもの村で徴収と、街道狙いですかい?」

「ああ、そうだな。行きたいやつは、ついて来い」


赤髪のモヒカンが、手順を確認すると、親分が答える。


いつもの村で徴収とは、ここから3日歩き森を抜けた所に、治安維持料を取っている村があるらしい。


治安維持とは、名ばかりのみかじめ料だな。

村を襲う盗賊が、村を襲わないという露骨なマッチポンプだ。


そして、街道狙いとは、村から少し離れた場所の街道で、行き交う行商人を狙う。

運が良ければ女は、ここで獲れるらしい。

運が悪いと騎士団と鉢合わせになるとか…。


親分から、酒のつまみに聞いた知識と照らし合わせ、辺りを見渡す。


手を挙げている者は、20人程だった。

焼肉係は下を向いて、肉を焼いている。


「おいおい!?これしか、手を挙げねーのか!?」

「てめーら、やる気ねーのかよ!?玉なしか?おい!?」


赤髪と青髪のモヒカンが、叫ぶ。


「やめろ。行きたいやつが、行けばいい」


親分はそう言うと、立ち上がり、


「名無し、何か欲しいものはあるか?」

「…そうだな。俺が着れる男物の服とローブがあれば。できれば生地は良い物で」


男装が趣味かよと、冷やかしの声が飛ぶ。

声の主、赤髪のモヒカンの顔を、よく覚えておいた。


「ルルはあるか?」

「…ルルは、大丈夫です」


そして、盗賊団は旅立った。

残った者達は、ルルを含め、なぜか微妙な表情をしていた。

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