第69話 獣人と領土

盗賊の集落


俺の前には、いかにも世紀末なモヒカン頭が二人並んでいる。


赤髪と青髪のモヒカンだ。


「おー、こいつは大量だな」

「おい、ルル。あとは俺達に任せておけよ」

「はい。いつも通りお願いします」


なんだこいつら?


そう思うが、口には出さない。

ここにはここのルールが、あるのだから。


ルルと一緒に、猪を降ろす。


「行きましょう」


小川に飛び込み、返り血を豪快に洗い流したルルの後について行く。


「あれ、どうなるんだ?」


あれとは、俺達が狩ってきた猪である。


「明日、ルルが解体したら、あとは日干しにするか、みんなに分けられますよ」

「取ってきたんだから、俺達が多めにもらっても良いよな?」

「やめて下さい!」


足を止めたルルに、叫ばれる。


「あ…あの…ごめんなさい」

「いや、それがここのルールなら仕方ないさ」


また歩き始めたルルに続く。


「…ルルは獣人だから、しょうがないんですよ」


少しの静寂の後に、彼女は口を開いた。


「俺の住んでいた場所に、獣人はいなかったから、わからないな」

「獣人は獣人達の中でしか暮らさないんです。ルルは特別です」


特別の意味が、哀しく聞こえる。


「つまり?」

「言いたくないです。とにかく問題を起こさないで下さい」


立場が弱いという事なのだろうか?


俺はモヤモヤする気持ちを抑えながら、ルルに続く。

土足で人の領域に踏み込むのは、ロクな事にならないからだ。


「ここが、ルルの家です」


集落の小川から離れた、木の壁に近い場所に、それは建っていた。


藁を編んで造ったコテージのような家。

集落の中で見た、ボロボロの藁で組まれた家に匹敵する程、質素で小さい。


「これは、ルルが建てたのか?」

「そうですよ。大変でしたけど、ルルの自信作です!」


俺が造るよりは、全然マシか…。

むしろ、これを一人で造るとは凄いな。


扉代わりに掛けられた藁をくぐる。


中には年季の入った壺と、藁で組まれた敷布団があった。


靴を脱ぎ、木の床に腰を降ろす。


「布団が一つしかないが、俺はどこで寝たらいい?」

「ルルが作るまで、一緒の布団で良いですよ」


大きめに作ってあるから、問題ないですと指を指す。


これは、確実に問題が発生するなと思った俺は、


「…俺は男だが?」

「今年聞いた中で、一番面白い冗談ですね」

「……」

「…冗談では…ないのです?」


うなづく俺に、ルルは顔を近づけて…

…匂いを嗅ぎ出す。


「うーん?」


返り血と、汗の匂いしかしないと思うがと思っていると、ルルの手が伸びてきた。


……

………


数分後


「…ケダモノです!」

「だから、男だって言っただろ!」

「ここから先に入ってきたら、嚙み殺します」


そう告げられると、部屋の中に見えない線を引かれた。


俺は三分の一の領土を、手に入れた…。

布団もなければ、枕もない不毛の領土だ…。

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