第68話 獣人と猪

働かざる者食うべからず。


集落から、1時間程歩いた森の中、俺はそんな懐かしい言葉を思い浮かべていた。


手には、血の滴る剣。

その横には、2体の猪。


「凄いです!こんな短時間で、大量なのです!」


大声で居場所を知らせると、駆けつけたルルが歓喜の声をあげる。


……

………


数刻前


「お金で、買おうとしたのですか?」


焚き火の男との経緯を話すと、彼女は笑い声をあげた。


「ここのルールがわからない。困っている」

「必要なものは、自分で揃える事ですかね?」

「それができないから、困っている」


少しスネた顔を、ルルに向ける。


「でしたら、ルルと一緒にみんなの食料を狩りに行くのは、どうです?」


色々優遇されますよと、彼女は付け加えた。


「住む家はどうしたら、いい?」

「一緒に狩りに行くなら、ルルの家で良いですよ」


ニコニコと微笑む少女。


「腕は確かなんですから、問題ないじゃないですか?」


人の笑顔を信用できないのは、俺の悪い癖なのだろうか。


「…断ると言ったら?」

「…ルルが…困ります」


その答えは、想定していなかったとばかりに、ルルは表情に出た。


…悪いやつじゃないか。


「いや、俺も困るから、その案に乗らせてもらうよ」


……

………


そして、これである。


燃費の悪いサーチ魔法を使い、獲物を狩る。

実に単純な労働だ。


そして、ルルは猪を木に吊るすと、血抜きを始めた。

同時に集落の小川から持ってきた水で、軽く泥を落とす。


次に内臓を摘出すると、


「まるで、殺人現場だな」

「悪趣味な例えです」


返り血で、赤く染められた彼女は少し怒ったように言い返す。


「悪い。俺にはできないから、感心してたんだ」

「ルルは、こんな事しかできませんから…」


悲しそうに呟く。


「血抜きが終わったら、集落の小川に漬けて、明日まで冷やすのです」


鮮度が大事ですからねと言う彼女と一緒に、早足に帰る。


森には、猪を担ぐ2人の姿があった。

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