第67話 貨幣の意味

貨幣の機能


交換手段

肉を持ってる人が、魚を求めている。

魚を持ってる人が、野菜を求めている。

野菜を持っている人が、肉を求めている。

この交換を、円滑に進める手段である。


計算単位

肉と魚を交換しようとしたら、お互いの重さが違った。

この交換を、平等の価値にする単位である。


資産の保存

肉を魚に交換しようと保存していたら、傷んでしまった。

この価値を、保存する機能である。


焼ける肉の前で、俺は哲学書の一文を思い返していた。


……

………


数分前


破れた服を着替えてくると言い、ルルは立ち去った。


少し村を見て回るか。


とは言うものの集落は、狭い。

一通り見渡せば、何があるか見える範囲であり、


商店はなさそうか。

飯はどうしたら、良いんだ?

ん?この匂いは…。


焼ける肉の匂いに誘われて、焚き火の男の前に行く。

肉を串に刺して焼いている男に、


「それは売り物かな?」

「…ん?欲しんか?」


男は、こちらへ顔を向ける。


「ああ、欲しい」

「なんと交換するべ?」


…交換?

不思議な言葉を使うが、俺が持っているものと言えば…。


腰袋から、銅貨2枚を取り出し、男に差し出した。


「…ん。見た事ねえ硬貨だけ、ここじゃ硬貨はダメだべ」

「…え?」


俺の困った顔を見て、男はめんどくさそうに頭をかき、


「新入りか?ここじゃ、物々交換だべ」


そして、なんか取れたら持ってこいと言われ、男はまた肉を焼き始める。


おいおい、どんな原始的な集落だよ。

いや、ここはここだけで、完結しているコミニティなのか?


少し離れた木に背中を預け、座り込むと頭を抱えた。


もしかして、自分で家を造る必要もあるのか…。

藁の家を造れるかも、怪しいんだぞ…。


人の生活圏に入れば、金を稼いで、食事や家は賃貸でなんとかなると考えていた計画は、早くも変更を迫られる。


…奪うか?

いやだが、殺してはそれも一時しのぎか…。


そう頭を悩まして、うつむいていると、


「もしもし、そこのお嬢さん?何かお困りですか?」


俺は顔をあげる。


「何かお困りでしたら、ルルがお話を聞きますよ?」


人が本気で悩んでいるっていうのに…。


そこには、いたずらっ子の笑みを浮かべた少女がいた。

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