第66話 盗賊の集落

盗賊の集落


ホブゴブリンの集落から、数時間歩いた場所にそれはあった。

東の砂漠に出るには、ここから1日半の距離であろうか。


乱雑に建てられた木の壁と、簡易的な堀。


「そういえば、名前はなんて言うのですか?」


ここがルル達の集落です、と指差す彼女に問いかけられる。


クロ…アリス…今までの呼び名を、思い出す。


「名前はまだない…」

「ん〜、じゃあ、名無しさんですね」


名前を捨ててきたというのは、盗賊には珍しくないようで、次の名前が決まるまで、そう呼ばれるらしい。


「ルルは親分のとこに報告に行きますが、ついてきます?」

「行った方が良いのか?」

「ん〜、そうですね」


怪しい者しか来ない場所だから、見知らぬ者がいても気にはされないが、トラブルは減ると彼女は言う。


もっとも、ここは緩い集落のようで、他は近寄っただけで、殺される集落もあるそうだ。


集落の門をくぐる。

集落の中には、小川が流れ、それを囲うように家々と木の壁が建っていた。


家はボロボロの藁で組まれたものや、木で作られたもの、統一感のない個性的な建物ばかりであった。


土の上で、何かの作業をしている男。

小川から、水を汲んでいる女。

焚き火で、何かを焼いている男。


みんな都市では見られない、農村のような貧相な服装だ。


「あそこが親分の家ですけど、ホブゴブリンの事は黙ってて欲しいのです」

「なぜだ?」

「問題が起きるのです。名無しさんは、ルルが逃げる途中で、拾った事にして欲しいのです」


そういう提案は、直前になる前に言って欲しいと思いながら、うなづく。


無駄に力を示すのは、俺にとっても好ましくないな。


そして、木で建てられた家の前に来ると、扉の代わりにかけられた藁をくぐり、家の中に入った。


「親分、今戻りました」


家の中には、30代くらいの男が3人の女とお楽しみ中であった。


「入る前に一声かけろって、いつも言ってるだろ」

「かけても、結果は変わらないのです」


半裸の女で遊びながら、親分は気にせず会話を進める。


「今日は、何が獲れたんだ?」

「…魔物の集団に襲われて、ルル以外死にました」

「…またかよ」


遊ぶのを一瞬止めた親分は、一呼吸考えて、また遊び出す。


「収穫は、名無しを拾いました」


紹介されたので、親分に一礼をする。


盗賊らしいボサボサ頭だが、目つきが悪い以外顔は整っていて、どこか品を感じる。


その親分は俺を見て、少し驚いた顔をしながら、


「狩りは、誰かを連れて行きな。そこの名無しでもいいぜ」

「わかりました」


要件は済んだようで、遊びに夢中になる親分を置いて家を出た。


「一夫多妻制なんだな、この集落は」


先程の光景を思い出して、呟く。


「あの女達ですか?そんなわけないじゃないですか。ルル以外の集落にいる女は、奪ってきたものですよ」


バカなんですか?と悪気のない笑顔の彼女を見て、盗賊の集落という事を、実感するのであった。

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