第63話 ゴブリンと獣人 前編

ゴブリン


緑の肌に、人間の子供のような背丈。

原始的な集団生活と、道具を扱う程度の知能。

アルマ王国領では、人の立ち入らない奥地に生息。


繁殖力がとても強く、ごく稀に強力な個体ゴブリンキングが産まれると、人里に侵略する事がある。


他種族の雌でも繁殖が可能な為、討伐優先度は最優先の魔物だ。


なぜ、そんな図鑑の知識を思い返しているかと言うと、眼下にゴブリンの集落があるからだ。


俺は切り立った崖の上にいる。

その下には、盆地を利用して作られた集落。


サーチ魔法で見つけた大量の反応はゴブリンだったらしい。


ゴブリンと会話なんて無理だよな…。


木と藁のような乾燥した茎で作られた家々。

崖の隙間から、吹き出る小さな滝を生活用水に使うゴブリン。

火を焚き、食材を並べるゴブリン。


背丈は小さいが、どのゴブリンも筋肉が盛り上がり、たくましい身体つきをしていた。


想像以上に、人間のような集落を見ながら思う。


ただゴブリン同士の会話は、キーキーとしか聴こえず鳴き声にしか感じなかった。


経験値に変えるか…


あの食材は食べれるのか?

遠目には、鳥や動物の肉のように見える。


ゴブリンでさえ、解体ができるのに…

いや、そもそも解体する機会なんてなかったから、できるわけないじゃないか。


旅袋に詰め込んだ干し肉を確認して、まだ大丈夫と自分に言い聞かせる。


両目に魔力を込める。


砂漠よりも濃い魔素が、辺りを覆っていた。

魔素と魔物の発生の、因果関係を考察した哲学書を思い出す。


空中に魔素を集める。


イメージは、串刺し…


そして、魔法を発動しようと集落を見下ろした時、


「いやぁぁぁ!やめて!やだ!やだ!」


女の叫び声が、集落の入り口の方で響いた。


…人間!?


魔法の発動をキャンセルすると、俺は叫び声の方へと顔を向けた。


大柄なゴブリンに手足を縛られて、肩に抱えられている少女。

茶色い髪が、手足をバタバタさせる度に揺れている。


そして、その後ろに複数のゴブリン。

その手には、人間だったであろうものが赤く染められ、引きづられていた。


砂漠で、飽きるほど凄惨な亡骸を見た俺は、特に何も感じなくなっていた。


「こんな樹海と山のど真ん中に、なぜ人間が?」


思わず独り言を呟く。


泣き叫ぶ少女を運ぶゴブリンの集団が、集落へ入る。

叫びすぎて、声がかすれだした少女に反応して集落のゴブリンが集まってくる。


大柄のゴブリンは、集落の真ん中に少女を投げた。

集まったゴブリンは、興奮したように少女の縄を解き、押さえつけると、


「いやぁぁぁ!!」


泣き叫ぶ少女の服を、乱暴に破る。


ゴブリンは、他種族の雌でも繁殖が可能。

そんな図鑑の言葉を、思い出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る