第64話 ゴブリンと獣人 中編
「おい、会話はできるのか?」
緑の種族に一応、問いかける。
「キーキー!!」
返ってきたのは、叫びの音色にしか聴こえないもの。
少女の服が破られると同時に、俺は反射的に縮地を使い、少女を押さえつけるゴブリン達を斬り伏せていた。
手には、肉を斬る感触が伝わる。
魔法で、串刺しにする予定だったんだけどな…。
腰に差した獲物で、襲いくるゴブリンをそれよりも速く斬り伏せる。
1匹見たら…ではないが、百は越える数が家から出てきては緑の鮮血を散らす。
そして、大型のゴブリンを何匹か仕留めた時、剣が耐久値の限界を超え…折れた。
蜘蛛の巣や草木に対して、俺の伝家の宝刀が…。
これ無しで、森を進むのは無理だ…。
あー、と悲しい表情を読み取ったのか、ゴブリン達が顔を歪めた。
魔素を右手に集める。
…カチリ…
少しイラっとした俺は、動くもの全てをなぎ払った。
この魔法の欠点は、範囲内なら全て斬ってしまう為、いくつかの家が崩れ落ちる。
…
……
………
「…大丈夫そうには見えないが、言葉はわかるか?」
斬り刻まれたゴブリンの遺体と、緑の鮮血が辺りを覆った後、俺は放心する少女に声をかけた。
ゴブリンに破かれた服は所々、肌を露出させている。
緑の鮮血に汚れた茶色い髪には…耳?
人間ではあり得ない位置に存在する、犬のような耳に目が止まる。
「…神さま?」
「…ん?」
神がどこにいるのかと思い、辺りを見渡した後、少女と目が合う。
言葉が、通じていないのか。
神さまと聞こえた発音は、どういう意味なのだろう?
「神さまとは?」
「フォルトナ神さま!」
今度はハッキリと、俺でもわかる神の名を口にして、祈るように地に頭をつける少女。
フォルトナ神
数々の冒険譚にも登場する名であり、アルマ王国で信仰されている神である。
何を司る神というわけでもないが、都市には教会が設立されており、人々の心の拠り所として、信仰が根付いていた。
ちなみに貴族や身分の高い者ほど、信仰が厚い者が多く、これらの寄付で教会は運営されている。
賢者の書なんてものを見れば、神への信仰が厚くなるのは理解できるが…。
そして、目の前の少女は、俺を神だと言った。
「フォルトナ神に祈るなら、俺ではなく教会にしなさい」
「…神さまでは、ないのです?」
言葉が通じるようで、少女は顔を上げた。
「ただの旅人というか…迷子というか」
逃亡奴隷と言うべきなのだろうけど…。
「あ、逃亡奴隷…」
俺の赤く変色した奴隷紋に気づいて、彼女は呟いた。
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