第58話 砂漠への進軍 改稿

王国歴308年

城塞都市ガレオン北


茶褐色の荒れた大地に風が吹き荒ぶ。

乾いた風音が鼓膜を刺激する中、無数の足音が北を目指して進んでいた。


見上げれば左右には切り立った山がそびえ立ち、その隘路を傭兵と騎士団は進んでいる。

関所跡と思われる門と、瓦礫の山々が目に付くようになると徐々に砂塵が舞い始めてきた。


ここはかつて敵が築いた関所であった。

前々代のガレオン子爵から二代に渡り激戦を繰り広げた場所である。


俺は馬車の窓から、それを眺めていた。

破壊された関所跡には敵影は見えず、完全に制圧されているようだ。


現在のガレオン子爵であるマリオンが、騎士団と傭兵団の混合軍を率いての初日。


彼女の言葉通り、俺は戦場に連れていかれたのである。

奴隷に身の回りの世話を命じるのは、珍しい事ではないそうだ。


…リナも他の奴隷も屋敷なんだよなぁ。

市場で買った奴隷とも遊びたかったし…。


そんな思考が頭を巡るが、馬車は無情にも進んで行くのだった。


「あと二つ関所跡を越えたら砂漠よ」


隣に座るマリオンは、頬杖をついて退屈そうに呟いた。

奴隷紋は彼女の周囲に範囲を変更され、青く輝いている。


「最後の関所を抜いたのが、数年前でしたか?」

「ええ、そうね」


彼女の兄と姉は、その戦いで戦死したらしい。

そのせいか憂鬱そうに窓の外を見つめている。


「…何もわからなかったのよね」

「…?」

「関所の先は広大な砂漠、敵の抵抗も弱まって…笑っちゃうわよね?その奥にあるはずの城すら見る事なく引き返してきたのよ」

 

そう言って苦笑いする。


「…砂漠ですか」

「厄介な天然の要塞よ。小規模な戦闘の繰り返し。傭兵団が村を襲って少しづつ情報は集まったけれど、それでも攻めきれなかった」


その副産物が特産品であるあの奴隷達らしい。


「だけど、今回は珍しく砦を築いて部隊を集結させているらしいわ」

「…そこを叩くのですか」

「ええ、私の代でこの先に進むのよ…必ずね」


彼女は決意に満ちた表情で、拳を握りしめる。

そんな俺達を乗せて進む軍馬達。


やがて谷を抜けると、広大な砂漠が見えてくる。

だが、一団は左に進路を変えると草原と砂漠の境目を北西に進み出した。


草原の先、西の方角には樹々に覆われた緑豊かな山並みが見える。


「不思議な景色ですね」

「あの山には魔物と盗賊が、住み着いているらしいわ」


馬車の周りにはガレオン子爵直属の騎士団、その数30。

女騎士の姿も見えていた。


後方からは、ノース侯爵第三騎士団が100騎。

そして、前方を進むのは傭兵団500弱。

アイリスも、あの中にいるのだろうか。


「どう攻めるのです?」


指揮官は彼女なのだ。


「簡単よ。接敵次第、遠距離一斉射撃からの突撃。こんな見渡しの良い砂漠で、小細工は必要ないわ」

「消耗が激しい戦い方ですね」

「その為の傭兵だわ」


戦況に対して臨機応変に動けるように、ノース侯爵第三騎士団を後ろに置き、攻めは犠牲の気にならない傭兵団を当てるらしい。


前方から、激励の叫び声があがる。

どうやら、敵部隊の集まる目的地に着いたらしい。


…上空からの視点でもなければ、何が起こってるか、まったくわからないな。


前方に広がる砂埃が、見えるだけなのだ。


部隊を手足のように動かす軍師の才能は、なさそうだと思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る