57-2話 ノース侯爵の試練
城塞都市ガレオン北
「行くわよ」
珍しく早朝からマリオンに声をかけられ、馬車に乗せられて数刻。
俺達は傭兵団と騎士達に囲まれて、出兵していた。
茶褐色の山肌を小窓から覗き、遠くに消えかけた城塞都市を名残惜しそうに眺める。
やがて、小窓の景色が石造りの瓦礫の山に囲まれたような場所に変化した時、馬車は動きを止めた。
「少し寄り道をするわ」
マリオンは、そう告げると馬車から降りる。
自然と彼女に続いた。
戦場跡のようで、辺りを警戒するように巡回する兵士達に囲まれて、降りた場所は小さな石碑と地面に無骨に突き刺した剣の前だった。
当たり前のように、その石碑の前に立つマリオン。
そして、女騎士から土瓶を渡されると、その中身の液体を勢いよく石碑にぶちまけた。
「…マリオン様」
「…良いのよ」
咎める様子の女騎士と、それを受け流すマリオン。
「この石碑は?」
俺は思わず、彼女に声をかけた。
「戦死した兄と姉の墓碑よ」
「それは…」
「…負け犬の墓だわ」
なんて声をかければ良いのだろうと、言葉を濁すが、彼女はそれを遮るかのように吐き捨てる。
その瞳は、決意とも哀愁とも受け取れる様々な感情が入り混じっていた。
「その液体は?」
「お酒よ。私は、そっちに行くつもりはないから、思いっきり投げつけてやったわ」
そう言い残すと、彼女は馬車の方へと進んだ。
「マリオン様はあのように仰っているが、仲の良い兄弟だったと伺っている」
マリオンの後ろ姿を眺める俺に、女騎士が声をかける。
「たぶん、そうなのでしょうね」
風化しかけている石碑を見て、彼女の行動の意味を考えるのであった。
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