第51話 黒髪の少女 改稿

あれから一ヵ月が経った。


窓から溢れる暖かい光。

自室のソファに寝転がりながら、本を片手に堕落した日々を思い返す。


週に何度かマリオンの部屋に呼び出されては、彼女の右手に遊ばれていた。

そして、柔らかな太ももを大胆に開くと、俺はその淫らな縦筋に舌を這わすのだ。

 

あられもない姿で喘ぐ彼女に、犬のように這いつくばり奉仕する姿が鏡に映る。

そんな夜が過ぎれば、日中はこうして部屋で本を読んでいた。


——コンコン


そんな時だ、部屋の扉が叩かれたのは…。


「失礼します」


ノックの音に続き、少女の声が扉越しに聞こえた。


「どうぞ?」


不思議に思いながら、読んでいた本を閉じ返事をすると、 扉が開かれる。


現れたのは黒髪の少女だった。

青い瞳と褐色肌が特徴のメイド。


俺と同じく奴隷紋が刻まれている。

そんな少女はゆっくりと頭を下げると口を開いた。


「マリオン様からの指示で来ました」

「…ああ」


話し相手として寄こしたのだろう。


…本ばかりも暇だと呟いた気がする。


「…普通に話していいですよ。私もマリオン様の奴隷ですから」


どこか余所余所しい黒髪の少女。


「わかった…ただ…話すのは苦手…」


これが素なのだろう。


目線を逸らし、か細い声で答える。


「……」


そして、訪れる沈黙の時間。


「メイドの仕事を見せてもらってもいいですか?」


話し相手としては人選ミスな気がするが、騒がしいよりはマシかと口を開く。


「…わかった」


コクリと頷くと歩き出し、そのまま部屋の外へと出て行った。


「…うん?」


首を傾げる。

だが、次に現れた彼女の手には掃除道具が握られていたのだ。

ああ、そういうことかと納得したところで、窓を拭き始める。


…へぇ、丁寧に拭くなぁ。


彼女の背後で感心しながら眺めていたら、視線が合った。


「……」


無表情な彼女だったが、何かを訴えるような目で見つめてきたのだ。


「…ここは汚れやすい」

「…なるほど」


そう告げると、また雑巾を動かす。

俺もそれをまた眺めている。


「……」

「…これは…試験?」


こちらに振り向く事もなく、か細い声だけが聞こえてきた。


「…違いますよ」

「…そう」


苦笑いで答える。

どうやら誤解させてしまったようだ。


窓拭きが一段落すると、彼女はベッドメイクを始める。

慣れた手付きでシーツや枕を整える。


「器用ですね」

「…ありがとう」


淡々と答えてはいるが、表情は少し緩んでいるようにも見えた。


「…次は雑巾掛け」


床に視線を落とすと、相変わらず感情の乏しい声で告げられる。


「…手伝いますよ」


流石に一人でやらせるのは気が引ける。

地味だが重労働なのだ。

少女は意外そうな表情を浮かべると、頷くのだった。

 

やがて、小一時間すると部屋の掃除が終わる。


「次は何をするんです?」

「…持ち場の掃除が終わったら、夕方まで休憩…」

「なら、メイドの部屋も見てみたいです」


私が行くかもしれなかった部屋なのだ。


「…わかった」


彼女に先導され、1階へと降りる。

まだ掃除をしている者もいた。


そして、離れへと続く渡り廊下に出ると、


ニャー


3匹の猫が、甘えた鳴き声で、黒髪の少女に寄ってきた。


「…ごめんね。今は餌を持ってないの」


少女は中腰で猫に語りかける。


ニャー


…言葉が通じるはずもないのだが。


「きみの猫?」

「…野良猫。餌をあげてたら、懐かれたの」


ニャー


「…また後でね」


彼女はそう語りかけると、歩みを進める。


メイド達は三階建ての木造建築に住んでいた。

細い廊下を見渡せば四つの扉が並んでおり、それぞれにプレートが付いている。


「…ここ」


一階の突き当たりの部屋の前に立つと、黒髪の少女は扉を開けて中に入るよう促してくる。

そこは簡素な寝室になっていた。


…というか狭い。


六畳程の室内には、ベッドと収納箱が置かれているだけなのだ。


「…ここが私の部屋」

「なるほど…」


それ以上の話題が見つかりそうもない。


俺達は餌という名の残飯を持って、猫達のところへ、引き返すのであった。



褐色肌のメイド イメージ


https://kakuyomu.jp/users/siina12345of/news/16817330651069142917



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