第48話 ガレオン子爵邸 改稿
アームストロング騎士団長
城塞都市ガレオンの実質的なトップである。
40代の彼は、現ノース侯爵が幼少の頃からの直属の騎士だ。
数多の戦場を駆け抜けた歴戦の騎士は騎士団長となり、五つの騎士団と共に城塞都市ガレオンの守りを任されていた。
騎士団長の着任は、代々の伝統なのだ。
そして、もう一つの伝統ノース侯爵の試練と呼ばれるものがある。
次期ノース侯爵当主は、成人したらガレオン子爵となり、ここで領地経営と戦場を実地で学ぶのだ。
国境隣接地帯の城塞都市ガレオンは、実学を学ぶという点で優れていた。
無能なら戦場で死ぬという安全性を除いては…。
「…というわけよ。彼に任せておけば、なんの問題もないの」
…あの男はなんですか?
その答えである。
場所はガレオン子爵邸。
城の隣の屋敷に入れば、数多くのメイドが出迎えてくれた。
応接間で紅茶を飲む俺達の横では、一人の特徴的な少女が甘味を配膳している。
短く揃えられた黒髪を揺らす彼女の肌は小麦色に焼けている。
青みがかった瞳に幼さが残る顔。
その無表情で淡々と作業する姿は、大人しそうな印象を受けた。
そして、首筋と右手には奴隷紋が刻まれている。
異邦人の雰囲気を感じながら、マリオンの説明を思い出す。
1階は今いる応接間と食堂と厨房。
大浴場もあって、数人の騎士が常駐する詰所があるか…。
メイド達は屋敷の離れで、暮らしているらしい。
2階は奥にマリオンの部屋と、その手前が護衛として女騎士の部屋になっていて、他に使用していない部屋が2つあるそうだ。
「長旅で疲れたよね。ここの大浴場は温泉なのよ?」
「…温泉」
「あら?わかるのかしら?」
マリオンは興味深そうに呟くと、褐色肌の少女に目を移す。
少女は無表情のまま小さく頷く。
「…ご案内します」
…温泉かぁ。
入りたいという気持ちが優った俺は、黒髪のメイドに案内されるまま部屋を出ると廊下を進む。
「こちらでございます」
屋敷の奥へと案内された俺は、少女の前の扉を開けた。
「ごゆっくりお過ごし下さい」
か細い声で、彼女は俺の奴隷紋をチラリと見る。
同じ奴隷紋同士なのに、その立ち位置はまったく違う。
…あまり良い感情を、抱いていないのかもな。
これ以上話す事はないと思い、俺は中へと入った。
扉を開けると野外に面した脱衣室に出る。
その先は露天風呂になっているようで広い湯船が見えた。
「硫黄の匂いだ…」
化学的には硫化水素の匂いらしいが、湯の花の意味的な硫黄の匂いという表現が、情緒あふれる温泉らしいと思う。
そんな事を思いながら、ゴシック調のメイド服を脱いでいく。
裸になると、自分が男である事を実感する。
庭園の中にある露天風呂に足をつける。
大理石のような大きな岩に囲まれ、見上げれば星空が広がる風景は風情があった。
湯気の向こうからは赤い月が姿を表し、月明かりに照らされた水面が静かに揺れている。
いつの間にか夜になっていたようだ。
「…ふぅ」
肩までつかり、自然と深く息を吐いた。
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