第43話 騎士の覚悟 改稿


肉が焼ける嫌な臭いが、辺りに充満している。

それは、足元に転がる死体の山から立ち上っていた。


…人の焼ける臭いとは、こういうものなのか。


そんな血生臭さが鼻をつき、気分が悪くなる。


首より上を失ったもの…。

心臓をひと突きにされたもの…。

商人だったらしいもの…。

盗賊だったらしいもの…。


「ゔぇえええっっ」


胃液と共に未消化のものが吐き出る。

興味本位で、馬車から降りた事を後悔していた。


それは、少し前。


「敵影確認!」

「撃てぇ!!」


マリオンの声と共に、無数の炎球が飛来し、前方の集団に炸裂する。


いくつもの火球が、襲われている最中の馬車へと降り注ぎ、爆音と炎が上がる。

商人らしい者の姿もある。


「突撃ぃ!!」


炎の雨が降り注いだのを確認すると、騎士団の隊長らしき男が声を上げる。

それに呼応するように、騎士達が武器を構えて斬り込んでいった。


それは、一方的な蹂躙だった。

逃げ惑う女性が、騎士に心臓を貫かれる。

無抵抗の者が首を飛ばされる。

命乞いをする声が響き渡る。

それでも止まる事はない。


そして、動く影がなくなった頃、俺は馬車を降りてしまっていた。


「人死を見るのは、初めてか?」


女騎士が、声をかけてきた。


「…ええ」

「マリオン様が心配されて、私をつけるように配慮された」


彼女の視線の先には、騎士団を指揮するマリオンがいた。

騎士団は周囲を警戒しながら、生き残りがいないか現場を捜索している。


「心配するな。こういうのは慣れだ」

「盗賊も商人も、ひとまとめなのですね」

「見分けなどつかぬ。先手を譲れば、死ぬのは私達かもしれないのだ」


確かに戦場で、敵味方の区別をつけながら戦う事は、自らの危険を高めるだろう。

その点で、騎士団の手際は見事だった。


遠距離からの奇襲で、敵の戦力を削り、瞬く間に制圧…死体の山を築く。


商人と思われる亡骸を見る。

まわりには、女性の亡骸もあった。

他にも盗賊なのか、商人の付き人なのか…。


「もう少し上手く…」


できないのだろうと思い、言葉をやめる。

レベルが存在し、才能が存在し、ステータス差が存在するのだ。

一騎当千の猛者が敵にいれば、盤上は簡単に覆る。


それを察したのか、


「何人かの犠牲はあった。だが、ここで逃せばその先にもっと多くの犠牲が生まれる。…私はそう教えられた」


だから、正しいとは言わなかった。


ただ、女騎士の顔には覚悟があった。

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