第44話 貴族の義務 改稿

ノース侯爵


アルマ王国の北部、国境隣接地帯を領地とする貴族だ。

緑豊かな王国直轄領と違い、草原や森は都市近くの一部でしか見られず、都市から離れると茶褐色の山間地が続いていた。


盗賊討伐が終わり、馬車に乗り込むとマリオンは珍しく黙り、窓の外を眺めていた。


「……」


俺も馬車の外を眺め、沈黙が続く。

静寂の中、進む馬車。


…気まずい空気だな。

彼女を見ると、視線に気がついたのか目が合う。


「これが、貴族の義務よ」

「…そうですか」


それしか返す言葉が見つからなかった。


「……」


また静寂が場を支配すると、俺は再び外の景色を眺めた。

変わらぬ模様が、刻をゆっくりと進めているような感覚に囚われる。


馬車の車輪が奏でる音と、蹄の音だけが響き渡っていた。


それからしはらくして、


「村に寄るわ」


景色に飽きてきた頃、マリオンが口を開いた。

彼女は俺の返事を待たずに御者に指示をすると、そのまま村の入り口へと進路を変えた。


一番近い村に、盗賊討伐を説明しておくらしい。


…村か、初めて見るな。


正面の窓を覗く。

木の柵で囲われた建物が見えてくる。

柵の周りには、掘で侵入者を阻む作りになっていた。


門のかなり手前で、馬車と騎士団は止まる。

女騎士が、門番の方へと馬を走らせた。


「村には、入らないわよ?」


マリオンの声に振り向くと、残念な気持ちが顔に出ていたのか、彼女はクスクスと笑う。


「宿があるかもわからないし、この人数で急な来訪は迷惑になるわ」


そして、彼女の言葉どおり馬車と騎士団は進路を変える。


「次はアリスちゃんの為に、使者を先に出してから、あの村に行きましょうね」

「貴族というのは、手間がかかるのですね」


別に、あの村に行きたいわけではないのだが。

この世界の村が、どんなものか興味があるだけで。


「そうね。充分にもてなしてくれるでしょうし、私達も充分な対価を払えるわ。あの村にとっても、良い事でしょう?」


…今、行きたいんだけどな。


膨れる頬を、ツンツンされる。


「それも、貴族の義務ですか?」


貴族とは、めんどうなものだと思い聞くと、


「…そうかもしれないわね」


頬をツンツンされながら、返された。

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