第39話 女騎士と奴隷 後編 改稿

マリオンがいない日 二日目


女騎士と少し距離の縮まった「おはよう」が一日の始まりだった。


朝食を済ませると、昨日と同じように直立不動の体勢を取る彼女を見る。

ただ部屋の空気は、昨日より和らいでいる気がした。


たぶん、彼女に他意はないのだ。

おそらく実直で不器用な騎士なのだ。


「私とお話に付き合ってもらえますか?」

「はい」


女騎士は小さく首を縦に振る。

その表情は昨日よりも柔らかい。


「騎士の方にお世話していただくというのは、こういうものなのです?」

「士官学校で、そのように教育されました」

 

言葉数は多くない。

それでも会話が続くのは進歩だろうか。

俺はソファーに腰掛けながら話を続ける。


「同性なので、室内護衛をしやすいと、私が配属されています」


まるで、面接のような問答。

いや、これが任務中の彼女の姿勢なのだろう。


「騎士という職業に興味がありまして、どういう経緯でなられたのか、お話しを聞きたいです」


昨日、彼女が見せた素の表情を思い出す。

そして、その口調を…。


「…昨日のような友人と話すような口調でですね」


だから、俺は本来の彼女を求めたのだ。

すると彼女は困ったような表情を見せた後、苦笑いを浮かべた。


「そうだな…」


昔を思い出すように、窓の方へ顔を向けると、語り始める。


「生まれは、ノース侯爵領の小さな町の男爵家の三女だな。代々ノース侯爵に仕えていてね…」


俺は黙って耳を傾けた。


「15の時、賢者の書で剣の才能を見出されてな。様々な幸運で、マリオン様の騎士として抜擢されたのだ」

「…へぇ」

「もっとも配属されたのは先日。3年間、騎士教育を受けていたのだ。作法重視だったから、レベル上げはこれからだな…」


俺とは違う世界で育ってきた彼女の話を聞いて、不思議な気持ちになる。


「…まるで、騎士物語ですね」

「まずは、吟遊詩人に歌ってもらわないといけないな」


そう言いながらも、まんざらではないようだ。


「吟遊詩人ですか?」

「そこにある光の勇者も、吟遊詩人の歌を元にしているそうだよ」


壁際に置かれた本棚を指さす女騎士。


「銀貨3枚…」


交易都市クーヨンの書店を思い出し、

小さく呟く。


「私は部屋の外にいよう。何かあれば呼んでくれ」


そう言い残すと、部屋から立ち去ろうとする。

その口調と表情は、出会った時とは随分と違うものであった。



女騎士のイメージイラスト

https://kakuyomu.jp/users/siina12345of/news/16817330650902339469


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