第37話 女騎士と奴隷 前編 改稿
マリオンのいない日 一日目
——コンコン!
ノックの音が響き渡る。
時刻は早朝。
奴隷として身についた習慣からか、日が昇ると共に目覚めた俺は、身支度を整え終わっていた。
「…どうぞ」
俺の声を合図に女騎士が部屋に入ってくる。
今日は白い甲冑ではなく私服だ。
いや、よく見ると腰に剣を差している。
「本日から私が身の回りのお世話をさせて頂きます」
彼女はそんな宣言と共に頭を下げた。
「宜しくお願いします」
女騎士は主人の騎士として、俺は主人の所有物として、お互いの立場をわきまえた挨拶から始まる。
そして、朝食のパンやスープがテーブルに運ばれると、彼女は部屋の外へ出て待機を始めた。
俺は居心地の悪さを感じつつも食事を食べ終えると、食器を下げに女騎士が再び入室してくる。
そして、仕事を終えると壁を背にして直立不動の姿勢を取るのだ。
…実に気まずい。
マリオンがいたなら、お昼寝をしたいところだが、いない望みは叶えられない。
「あの…私に構っていただかなくても、大丈夫ですよ」
この何とも言えない空気感に耐えきれず、声をかける。
「お世話をするように君命を受けました」
「……」
ああ、これはあれか…。
お堅いタイプか…。
ソファーに座る俺と、直立不動の女騎士。
窓を見れば、空は快晴で小鳥の鳴き声が暖かい日差しと共に聞こえてくるのだが、この部屋だけが寒々と冷え切っているような気がした。
「マリオン様の奴隷である私は、どうすれば宜しいのでしょうか?」
「…貴族街の中なら、自由に出歩く許可が出ております」
必殺の上目遣いを炸裂させるも効果はない。
無表情のままピクリとも動かないのだ。
…もうストレートに伝えるしかないのか。
お堅い騎士様にこんな話をすれば怒られるかもしれないが仕方ない。
覚悟を決めて口を開く。
「では、お昼寝をしたいと思いますが、宜しいでしょうか?」
「……」
相変わらず表情に変化はないが、僅かに眉根が動いた気がした。
「…はい」
俺が騎士なら、嫌味の一つも言いたくなる事を告げるが、返ってきた言葉は短い了承であった。
そして、直立不動のままの女騎士。
「部屋の中にいられると、お昼寝に集中できなく…」
「では、部屋の外に待機しております。何かあればお呼び下さい」
俺なら確実に表情を変える言葉を告げても、淡々と返される。
そして、女騎士は部屋から出て行った。
彼女は…いや、騎士とはなんだろうか。
元の世界でも出会った事のない種類の人間に、混乱する。
だが、ベッドに横になった俺は…羽毛に負けた…。
…
……
………
窓から射し込む太陽の光に目を覚ました俺は身を起こす。
どのくらい寝たかわからないが、外はまだ明るい。
寝起きのため思考が定まらずボーッとしながら、部屋の扉を開けた。
「どうかされましたか?」
扉の前には女騎士が立っていた。
…はぁ。
この気持ちはなんだろう。
…人間として負けている気がする。
外の陽気に反して、俺の心はとても憂鬱だった。
こんな時は、
「…中庭に出ませんか?」
「…何をするつもりです?」
「剣の稽古がしたいです」
久しぶりに、身体を動かす事に決めた。
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