第35話 100年に1人の逸材 改稿

王都アルマ


貴族街を抜けた先には、最後の城壁が王宮を囲うようにそびえ立っている。

その壁の中には歴史を感じる荘厳な城が、王の権威の象徴として存在していた。


そして、王城の側には一つの古びた塔がある。

そこは王国が所有する賢者の書の保管庫なのだが、そこに出入りする人間は限られていた。


何故なら、王家が独占し特権階級のみに解放される秘密の存在だったからだ。

そんな限られた特権階級が集まる塔の広間で今、一人の人物に注目が集まっていた。


「勇者だ!勇者が現れたぞ!」

「あれほどの才能値、100年に1人の逸材だ!」

 

興奮を隠しきれない様子の貴族達が騒ぎ立てる中、その人物は広間の中央に佇んでいた。


年齢は10代後半といったところだろうか。

幼さが抜けきらない顔つきでありながらも、その表情からは大人びた雰囲気が感じられる。


黒い髪をかきあげ、静かに周囲を見渡す瞳は黒曜石のように黒く澄んでいた。


「どうしたのでしょうか?」


歓声を眺めていた俺は、群衆を割って騒ぎの中心から戻ってきたマリオンに声をかける。


「才能合計値が、40の化け物が現れたそうよ…」

「……?」

 

信じられないといった様子で呟く。


…40?

 

才能は攻撃から速さまでの五種類だから、平均すると8程度。


…8ねぇ。


「わからないのかしら?」


今ひとつ凄さが理解できない俺に、彼女は言葉を続ける。


「5でも一流って言ったわよね」

「そうですね」


五項目の才能だから、凡人は合計5〜10、20〜30なら平均して一流。

ああ、合計22のマリオンが、自慢気にしていた理由がわかった気がする。


「それで、あの騒ぎの彼は?」

「攻撃9 防御9 知力6 魔力7 速さ9らしいわ。男爵家の後継じゃなかったら、私の騎士に欲しかったのに…」


…なるほど。

前衛向きの才能値のようだ。


そして、この1の差はとても大きいのだと気づく。

レベル上限が1違うから、ステータスは1レベル分違う。

スキルも例えば剣術なら、レベル8か9と上限が違う。


「…なるほど」


そうなると、とても心配な事が思い浮かぶ。

もし、推測どおりなら俺の才能値は…。


「才能値は、公表されるものなのでしょうか?」


歓声の鳴り止まない塔の中を見渡して尋ねる。

それは、俺にとって重要な質問だった。


「高い数値が出た貴族は、あのように公表して力を示す事もあるわ」

「ああ、政治的な理由ってやつですか」

「ふふ、面白い事を言うのね」

 

俺の呟きに、小さく笑う。


「ただ報告も公表する義務はないわ。騎士は主人に報告するけどね」


それを聞いて、ホッとした。


「大丈夫よ。アリスちゃんの可愛さに興味はあっても、才能値に興味はないから」

「…報告しなくていいんですね?」

「ええ、アリスちゃんが凡人だなんて報告、聞きたくないもの」


そう言って、クスクスと笑うのだった。


ただ俺の才能値は、きっと…。

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