第33話 王都アルマ 改稿

王都アルマ


四重の城壁に囲まれた、アルマ王国の首都だ。


一つ目の城壁を抜けた先は広大な耕作地が広がっていた。

自給自足の概念は、大都市の共通認識なのかもしれない。


そんな畑を横目に見ながら通り過ぎれば、目の前には二つ目の壁が立ち塞がる。

その先は市街地のようだったが、貴族専用の道の為、閑散としていた。


建ち並ぶ家々はレンガ造りの重厚な建物が多く、三階建ての家屋も珍しくない。

道幅は広く、脇には街路樹が整備されていて、緑も多い。


石畳が敷き詰められた道路を馬車が進む。

しばらく走ると、また城門が姿を現わした。


その前で止まると、今度は二人の門番が姿を表す。


「開門!」

「開門!!」


合図とともに開かれる門の先には、巨大な広場があった。

中央部分に噴水があって、周りを取り囲むように道が延びている。


「…ここは?」

「貴族街よ?」

「ああ、どおりで…」


先程の街並みとは、空気が違うのだ。

華やかな屋敷が並んでいるのだ。

 

貴族を相手にする高級店も建ち並んでいる。

その中の一角に俺達を乗せた馬が止まった。


「…ここが私の屋敷よ」


どうやら目的地に着いたようだ。

馬車を停める庭はあるものの、道中で見た他の屋敷よりは、比較的小さい屋敷だった。


門を潜って庭の中に入ると、騎士達が列を作り並ぶ。


「ガレオン子爵邸ですか」

「あまり使わないけど、お父様が買ってくれたの」


馬車を降りるマリオンに手を引かれると、騎士隊長が先導するように屋敷の扉を潜る。


その後に続いて中に入ると…。


広い玄関ホールが出迎えてくれたのだった。

豪華なシャンデリアに照らされた広間。


天井からは綺麗なガラス細工の照明が下がり、正面には二階の吹き抜けへと続く階段がある。

そんな大広間には左右の部屋に繋がる扉と、奥に続く廊下に分かれていた。


ただ、


「…暗いですね」


屋敷の中に灯りはなく、執事やメイドが出迎えてくれるという予想は、裏切られる。

マリオンの言葉どおり、人を常駐させる程、使わないのだろう。


「マリオン様、今灯りをつけます」


騎士隊長はそう言うと、他の騎士に指示を出し屋敷の中へと散っていった。


「1階は食堂、厨房、大浴場、あと騎士達の詰所になっているわ」


灯りのついた部屋を指差しながら説明される。

マリオンの後に続き、二階に上がる階段を昇ると、


「そこが私の部屋、あと3部屋はゲストルームだから、自由に選んで」


疲れたから夕食まで休むと言い残し、マリオンは自分の部屋に入って行った。

半日も馬車で揺られて、私のお尻も悲鳴をあげている。


「…疲れたな」


自由に選んでと言われた一番近い部屋の扉を開ける。

部屋の中は広々としていて、奥には天蓋付きのベッドあった。


手前には高級感漂う応接セットが置かれている。

窓から差し込む光は、夕暮れを予感させていた。


「トイレと…なんの部屋だ?」


室内に二つの扉を見つけて呟く。


だが、それよりもベッドだ。

天幕付きなど、この世界では滅多にお目にかかれないのだ。

 

慣れない馬車の移動に疲れていた俺は、純白のシーツにダイブする。


「…良い匂いだ」


柔らかな弾力に包まれる。

エリー様が買ってくれたベッドも、素晴らしい寝心地だった。


だが、さすが貴族様のゲストルーム。

奴隷商人の使い古された薄い布団など、比較にもならない。

掛け布団に手を伸ばせば、その特徴的な軽さが伝わってきた。

 

「羽毛か…」


…さすが貴族様。


仰向けになり、羽毛布団に包まれると天井を見上げる。


賢者の書という未知の力に目がくらみ、自分を売った。

マリオンにどんなおもちゃにされるか身の危険を感じたが、道中はそんな気配はなかった。


そして、このご褒美である。


「もうこのまま、マリオンの奴隷で良いかな」


怠惰なご主人様の気持ちが、わかってきた。

それ程までに睡魔とは、ベッドとは素晴らしい。


そんなベッドに体を預けていると意識が薄れてきたのか、そのまま夢の世界に旅立ってしまうのだった。

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