第19話 魔力操作 改稿
錬金術師エリーの店 一階
——魔法
それは魔力を触媒に、事象を引き起こすものの総称だ。
そして、俺の知る世界では存在しなかったものだ。
もっとも科学という概念が、魔法の代わりに存在したが…。
その科学というやつは、鉄の塊を空に飛ばしたり、簡単に人を殺す兵器を生み出しているのだから、なんとも恐ろしい世界だったのだろう。
…おっと、話が逸れてしまったようだ。
話を戻そう。
——もし魔力が存在したとしたら?
きっと誰もが、寝る間を惜しんで熱中するだろう。
魔力を感じるようになり、あれから二ヶ月。
…俺は寝不足気味だ。
「ふわぁ…」
そんなあくびをしながら、今日も静かな店内を見回す。
幸いこの店は一日の来店が少なく、多少コクリ、コクリと船を漕いだところで、問題ない。
扉に取り付けられた警報の鐘は、今日も仕事をしてくれた。
「問題なのは…」
カウンターに座る俺は、自分の両手に意識を集中する。
あの違和感が身体を循環し、両の手に光が集まる。
「はぁ…」
だが、溜息が出る。
何度やっても、ここで終わりなのだ。
二ヶ月、寝る間を惜しんで熱中した成果が、体内の魔力を一部に集中させるだけなのだ。
足に集中させたら、駆け足が速くなった。
手に集めたら、握力が強くなった。
身体強化的な効果が得られたのは良かったが、未だ魔力操作の域を出ず。
炎を出すなどの空想していた魔法の使い方は、見当がつかない。
そして、魔力総量は増えている気がしなかった。
「…必要な時に、いないんだよなぁ」
開く事のない扉を見て、愚痴をこぼす。
博識なマリオンは、また領地に戻ったようで、しばらく姿を現さなかった。
気軽に聞ける彼女がいないとなると、気難しいご主人様しか頼る相手がいなくなる。
…ただなぁ。
気が進まないと思いつつ、両目に魔力を込めた。
マリオンが置いていった姿鏡に目を移すと、そこには緋色の瞳が映る。
——魔眼よ
ご主人様がそう呼んだこの眼だが、今の所はただのカラーチェンジだ。
ただ最近気づいたが、この瞳で空間を見ていると、たまに大気中に小さな光の球体が、浮かんでいるのがわかる。
意識を集中しなくても、自然に魔力の流れが感じられるらしい。
「…来い」
室内に漂う光に、魔力操作をする感覚で、念じてみる。
すると驚いた事に、小さな光の球体がいくつか集まり、身体のまわりを漂い始めたのだ。
「…面白いな」
エリー様の真似をするように、右手を伸ばすと、手のひらに漂っていた光を集中させた。
光の球体は、輝きを増して膨らんでいく。
「……」
その現象を呆然と眺めていた。
…俺の魔力も流し込めるか?
それはただの気まぐれだった。
右手に集まった光が、さらに膨らみ輝きを増す。
「…へぇ」
大きな進歩を得たような気がした。
そして、調子に乗った俺は拳を握り締め、
「爆ぜろ…」
小さな爆発をイメージして、呟いた。
純粋に目の前の現象が、夢幻のようで面白かったのもあるだろう。
だがその結果は、想像を超えたものになった。
俺の呟きと共に、右手の中で膨張する光は眩く輝いて爆発したのだ。
——ズドォォンッ!!
轟音が鳴り響き、店の壁にヒビが入る。
その爆風が窓や棚など吹き飛ばしていく中、俺の身体も吹き飛んだのだのだった。
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