第9話 錬金術師エリーの店 改稿
交易都市クーヨン
それは二重の城壁に、守られた都市だった。
内周と外周城壁の間には、広大な土地が開けており、そこには作物を育てる畑が広がっているらしい。
俺がいた奴隷商人の館も、この丘の上に建っていた。
内周城壁の中は、住宅街と商店街が区分けされて並んでいるそうだ。
そんな街並みを眺めながら歩いていると、大通りに面した商店街が見えてくる。
「凄い人通りですね」
「そうね…」
エリーの反応は薄いが、行き交う人々は活気に満ち溢れているように見える。
商店が立ち並ぶ通りの両端には、屋台や露店もあり、多くの商人が店を出していた。
そんな賑やかな光景に見惚れていると、いつの間にか人の流れから外れて、静かな道に入っていた事に気付く。
エリーはそのまま進み続け、細い路地に入ると突き当たりにある建物の前で、立ち止まった。
石造りの古い建物は二階建てで横に長く、入り口の上の壁には、金属の看板が掲げられている。
——錬金術師エリーの店
そう書かれていた。
「…ここよ」
まあ、見たままである。
エリーは扉を押して中へ入るので、俺もそれに続く。
木の板が貼られた店内は、広々とした部屋になっていて、大きな窓から差し込む光に照らされている。
「…へぇ」
初めて入った錬金術士の店に、思わず声が漏れた。
カウンターの奥に置かれた商品棚には、赤と青の二種類の液体が、ガラスのような筒状の瓶に入れられ置かれている。
興味をそそられ手に取ると、竹のような感触に違和感を覚える。
「…これはガラス?手触りが…」
透明感はガラスなのだが、触った感じが竹なのだ。
「…ガラスを知っているのに、透明竹を知らないなんて…貴族様?」
「…故郷の国では、その透明竹というのはなかったのですよ」
俺は愛想笑いを浮かべつつ、手に持っていた瓶を棚に戻す。
「ガラスは量産が難しい…透明竹は農村の収入源…」
説明するのが億劫なようで、窓に指を当てながら、ポツポツと語り出した。
どうやらガラスは貴族の嗜好品であり、透明竹は文字通り透明な竹を加工した物らしい。
量産の難しいガラスの代替品として、容器や窓に使われ、農村の貴重な収入源になっているようだ。
俺はそんな説明を受けながら、先程の瓶へと目を戻す。
「この赤色の液体は、なんでしょうか?」
「…ポーション」
「ポーションというと傷を治す?」
「ええ、青いのはマジックポーション…」
どんな味がするのだろうか?
原色そのままの液体は、駄菓子屋の怪しいジュースのような色合いなのだ。
「…奥は物置…あなたの部屋…」
「…物置?」
俺は彼女の指し示した先、カウンター横の扉を開けた。
六畳ほどの広さの部屋だか、物置と言う割には何もない。
床は剥き出しの石造りだが、掃除をしていないのかホコリが目立つ。
天井近くにある小さな窓から入る光は薄暗く、当たり前だが、ベッドのような寝具もない。
「…床で雑魚寝ですか」
実に奴隷らしい扱いとは思うが、こんな所に住みたくはないなぁと思いつつ呟くと、
「ベッドは買う…」
俺の呟きが聞こえたのか、彼女は一言だけ答えると、二階へ続く階段に足をかけた。
ただ何かを思い出したように立ち止まると、
「…仕事の時間よ」
それだけ告げて、階段を登って行った。
「…仕事?」
俺は物置部屋から出ると、人気のない店内を改めて眺める。
…え?
貨幣価値も、わからないんだけど?
ただ呆然と立ち尽くすのだった。
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