迷子のシキガミさま2
「そうだ、
シキガミのヨジロウ(
わたしのリアクションを待つみたいに、顔をのぞきこんできて、右の耳をピコピコさせてる。
……うん、かわいい。
「いや……待って? これ夢? 夢じゃない?」
わたしは気付いた。気付いてしまった。
「はあ?」
ヨジロウが大げさに口を開けてきょとんとした。
ごめんね、ヨジロウ。わたしは気付いてしまったの。
わたしきっと、お坊さんのお経が長くて、静かだから、きっと眠くなっちゃったんだわ。バチ当たりなことしてるから、こんな夢を見てるのねきっと。
「早く起きなくちゃ!」
大声で言ってついでに、ほっぺも思いっきり叩いちゃう! ペチン!
「いひゃい……」
おかしいな、夢なのに痛いぞ?
ヨジロウは耳をぺったんこに寝かせて、目を見開いてこっちを見てる。
何よう、そんな怯えたような顔しなくても。
よし! こうなったら
「お前、何してるんだよ」
「起きるの!」
「はああ? おい、夢じゃねえ……」
全力ダッシュ――飛び出すと同時に、すごい大きな音がした。
プアーーーーーーーー!クラクションだ。
――ア。わたし、死んだ?
「バカ……!」
ヨジロウの声が耳元で聞こえたと同時。
ぐるん!
ジェットコースターにでも乗ってるみたいな、すごい速さで周りが流れていく。
何が起こったの? なんて考えるころには、おしりに痛みを感じた。
「あぶねえだろうが!」
「ごっ、ごめんなさい!」
慌てて立ち上がって頭を下げる。顔を上げたときには、トラックはもう走りだしていた。
とりあえず、わたしひかれてないよね? いたくない……何があったの?
「ミント!」
「ミント! 大丈夫?」
お母さんとおばあちゃんが揃って玄関から出てきた。クラクションの音でおどろいて、心配してくれたみたい。
「今の音、何だったの?」
「え、ええと、その」
夢を見てると思って道路に飛び出して、何が起こったかわからないけど無事だったみたい……なんて言えないよね。
「なんでもないの。転びそうになったところに、トラックがきて」
「やだ! ぶつからなかったの? ケガは?」
「なんとかよけたから、大丈夫!」
「もう、心配させないで。おどろいたわ」
お母さんはため息をついて、わたしの背中をなでた。
「ごめんなさい」
「いいのよ、さ、そろそろ帰りましょうか」
お母さんがそう言って、玄関に戻っていくと、おばあちゃんが思い出しだように、お料理やお野菜を持っていきなさいと言って、お母さんをキッチンに連れて行った。
「おい」
「わあっ!」
「お前、何やってるんだ。俺がいなかったら死んでたぞ? 夢じゃねえ現実なんだからな」
急に声をかけられて足元を見ると、ヨジロウがじっとりとわたしを見上げていた。
やっぱり、夢じゃないの?
「えっと、ヨジロウ?」
「おう」
「あなたが助けてくれたの?」
「そう言ってるだろ。感謝しろ」
「う、うん。ありがとう」
エッヘンと胸をはる、小さな白いシキガミは、やっぱりかわいかった。
「でもどうやって?」
「普通にお前のクビを
「は? うそ! そんなにちっちゃいのに?」
「そのくらい、チョロいに決まってんだろ」
「そ、そうなの? とりあえず、ありがとうね」
しゃがみこんで、ペコリと頭を下げると、ヨジロウは思いっきり大きなため息をひとつついて、じいっとわたしの顔を見つめてきた。
「なな、なになに?」
もしかして、何かお礼に差し出せ、とか言う?
「いや、似てるなあと思って」
「へ? 何に?」
ヨジロウはむうっと言って眉間にシワを寄せた。
「……別に……」
「別にって何よ、気になるじゃん!」
「ところでお前、さっき俺の社の前で出してたやつ、もう一回出してみろ」
「へ?」
急になんだろう? スマホのことかな?
ポケットから取り出して、ヨジロウに見せると、ヨジロウは
「なかなかいい感じだな。決めた。ここに住む」
「……え?」
今なんて?
「この妙な札の中に住むと言ったんだ。あの社は俺の本当のねぐらじゃない。せまいんだよな、あそこ」
「そりゃまあ、小さいお社だったけど……って、何言ってるの? ていうか、スマホの方が小さいじゃない」
「だから、俺のねぐらにもどれるまでの
「そうだよ、白羽みんと……って、ちょっと待って!」
ぴょこんとはねたヨジロウが、まっ白な光の玉になった。
なにこれ、どういうこと? わたしの意見聞く気、なさすぎじゃない?
そんなことを考えているうちに、光るヨジロウ玉はすうっと吸い込まれるように、スマホの液晶に向かって消えていった。
「ええええええっ?」
スマホをタップしてホーム画面を開くと、いろんなアイコンの隙間を、カクカクした白い狐のキャラクターみたいなのが、トコトコ歩き回ってる。昔のゲームのキャラクターみたいになってる……これ、ヨジロウ?
「う……うそぉ……」
恐る恐る狐をタップすると、ぴょんとはねてこちらを見た。
『何だか変わった場所だが気に入った。
「へっ?」
『これからよろしくな。ミント!」
スマホからヨジロウの声が聞こえた。
「ちょちょ、ちょっと……!」
『おっこれは何だ?』
あっと言う間もなく、わたしが最近ハマっているパズルゲームのアプリにヨジロウが触れる。すると、液晶の中のヨジロウはパッと消えてしまった。
「えええっ……ちょっと……大丈夫?」
「ミントー! どうしたのお~?」
「あっはあい! 今行く~」
お母さんが呼んでる。行かなくちゃ。
ヨジロウのことはどうしようもないし、とりあえずほっといて……後で考えよう。
「帰りましょう、ミント。明日も学校だし、宿題、まだやってないんでしょう?」
「あっそうだった!」
忘れてた……これは帰ったらすぐプリントやらなくちゃ。
苦手なこと、後回しにしちゃうの、悪いクセだなあ。
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