第33話
「おいおい! どうなってるんだ!」
東の魔王軍幹部であるドーバは、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
同じ幹部として最も信頼していたルルカが、無残な姿で息絶えていたからだ。
どのような手を使われたのかは分からないが、心臓と喉に風穴が開けられている。
正確に急所を射抜いたその攻撃――数秒として耐えられるものではない。
ルルカの索敵能力は、この魔王軍でもトップクラスであり、鍛え抜かれた遠距離魔法で何人もの人間を葬ってきた。
どれだけ敵がいるのか把握できていないのにも関わらず、ここでルルカを失うのはあまりにも痛すぎる。
「すみません、ドーバ様! アタシが来たときにはもう……」
「チッ、もうこの城の中に入られたってことか……? どんな奴かは知らんが、ルルカを狙ったのは大正解だぞ……」
ドーバは、行き場のない憤りを自分の中に押しとどめた。
ついつい敵を褒めてしまうほど、絶望的な状況だ。
下僕のフィーはどうして良いのか分からずに、アワアワとドーバの様子を伺っている。
「ドーバ様……ルルカ様をどうなされますか?」
「放っておけ。片付けるのは後でいい」
「あ、あの! やっぱりアタシ、この殺され方はおかしいと思います!」
「……確かに不自然な殺され方だな」
異変に気付いたのは、フィーの方が先だった。
ルルカの殺され方は明らかに常軌を逸している。
そもそも、この部屋には戦ったような形跡がない。
いくら強敵だったとしても、抵抗すらできずに死ぬということが有り得るだろうか。
ましてや、魔王軍の幹部であるルルカが、だ。
「確か、ルルカが敵を殺す時もこのような殺し方だったよな」
「そ、それは、ルルカ様と同じ技術の者が敵にもいるということでしょうか……」
「いや……それにしても、ここまで似ているのか? なにか――」
その時。
ガシャン――と、扉を蹴り破るような音が城の中に響き渡る。
下僕には聞こえていないようだが、ドーバの耳はしっかりと聞き取っていた。
このタイミングで――なおかつ、このような入り方をするような者の心当たりは一つしかない。
「ここまでか。他の幹部にもルルカのことを伝えてくれ」
「か、かしこまりました!」
これ以上、ゆっくりと会話をしている暇はなかった。
侵入者に一番近いドーバが、相手をすることになるだろう。
フィーに用意させた武器を持ち、足音がする方向へ進む。
ルルカの仇として。
侵入してくる者は、一人残らず叩き切るまでだ。
憎悪に反応して威力が増す【憎剣】は、まさにベストコンディションと言えた。
「一応――必要ないかもしれないが、魔王ガルガ様にも報告しておいてくれ。こっち側の侵入者を倒し終わったあと、すぐ合流する予定だ」
「はい! ご武運を!」
ドーバの勝利を信じて。
フィーは、それ以上言うことなく送り出した。
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