第32話
「リヒトさん。あれが魔王城なの?」
「そうだよ。噂しか聞いたことがなかったけど、まさかあれほど大きいとはな……」
リヒトとフェイリスは、遠くから眺めるようにして魔王城を確認していた。
噂以上の大きさであり、多くの冒険者たちがこの場で帰らぬ者となっている。
七人で攻め落とすには、無謀とも言える規模だ。
まだまだ近付いてもいないのに、体が拒否反応を示してしまう。
空に飛び交っている黒鳥は、常に威嚇するように鳴き喚いていた。
「既にドロシーたちが攻撃を仕掛けてくれてるはずだから、今のうちに中に入るぞ」
「了解なの――」
そう言ってフェイリスが立ち上がった瞬間。
魔王城の一部屋から、凝縮されたレーザーのようなものがフェイリスの心臓を貫いた。
目で認識できたとしても、回避するほどの時間は与えてもらえない。
そして。
確実に殺すための追撃が、フェイリスの喉に直撃する。
傷口から溢れている血がドス黒く染まっていることから、ただの攻撃ではなさそうだ。
相当な距離があるにも関わらず、急所を正確に射抜く芸当は、さすが東の魔王軍としか言えなかった。
(この距離でこのスピード……しかも索敵能力が桁外れだ……)
フェイリスを蘇生させながら、リヒトは魔王軍の力を思い知らされる。
立ち上がるという僅かな動きで、場所まで完全にバレてしまっていた。
これほどの索敵能力を持っている者がワラワラいるというわけではないだろうが、それに匹敵する力を持った者はいるはずだ。
(……攻撃が止まった。死んだみたいだな)
しかし、戦力の差を嘆いていても仕方がない。
今は相手の目を奪ったということで、ポジティブに解釈しておく。
「ビックリしたなの。リヒトさん、大丈夫だった?」
「ああ。おかげさまでな」
フェイリスはムクリと起き上がり、喉元を確かめるように触っている。
その感覚に異常はないらしい。
しっかりと塞がっている傷跡に満足そうだ。
「少しイレギュラーがあったけどしょうがないなの。リヒトさんも攻撃には気を付けた方がいいなの」
「……そうだな」
落ち着きを取り戻し。
ふぅ――と、一仕事終わったような雰囲気で魔王城へと向かうフェイリス。
これだけ大胆に歩いていても、攻撃してくる者は誰もいない。
敵が混乱している今がチャンスだ。
思い出したかのように駆け出すフェイリスの後ろを、リヒトは追いかけるように付いて行った。
(いきなり使わされたな……敵が能力を理解していなければいいんだけど……)
早々に見せてしまった手の内。
リヒトの頭の中は、それに対しての後悔しかない。
《死者蘇生》のスキルがバレてしまったとしても、戦いに大きな支障が出ることはないだろう。
それは、相手から対策することはできないからだ。
しかし、フェイリスの能力が敵に知られているとなると、全く別の話になる。
《怨恨》のスキルを知られてしまえば、対策はあまりにも容易だった。
フェイリスを殺さなければ良いだけのことなのだから。
ある程度の戦闘能力を持っている者がいれば、フェイリスは簡単に捕らえられてしまう。
そうなってしまえば最後。
フェイリスをわざわざ殺すような愚か者はいない――つまり、フェイリスが封じられるということであった。
「フェイリス!」
「……? どうしたなの? リヒトさん」
「これからずっと、俺の近くにいてくれ」
リヒトが出した結論は、あえてフェイリスを守るというものだ。
理想を言えば《怨恨》のスキルは、東の魔王に対して使いたい。
そのためには、能力がバレないように隠し続ける必要がある。
このことを考えると。
東の魔王と対面するまでの間、リヒトがフェイリスを守り切るしか道が残されていなかった。
ただでさえ不利なのにも関わらず、フェイリスを守りながら戦うというのはかなり厳しい。
それでも。
勝利に繋がるというのなら、ただ実行するまでだ。
「そ、それは勿論……なの。仲間として当然というか……近くにいたいのは私も……なの」
ガクンとフェイリスの走る速度が落ちる。
なぜか顔を真っ赤に染めて、リヒトとは目を合わせないように俯いていた。
そして、リヒトの耳では聞き取れないようなセリフを、ボソボソと地面に向けて呟く。
聞き返そうかとも考えたが、戦場の真っ只中でそのようなことをしている余裕はない。
宣言通りフェイリスを守るように、リヒトもガクンと速度を落とす。
「どんな敵がいるか分からないから、フェイリスも注意しておいてくれ」
「分かった……なの」
復活した時とは別で落ち着きを取り戻した頃。
魔王城の古い扉を蹴り破り、二人は内部へと侵入することになった。
真っ黒なカーペットに導かれるよう奥に進むにつれて、剣を持つリヒトの手に力が入る。
いつ敵が現れても対応できるほどの集中力だ。
心做しか体も軽い。
ただ。
必要以上に体を近付けるフェイリスが、少しだけ邪魔だった。
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