第31話
「作戦は任意……って言われてもなぁ」
リヒトたちは、東の魔王に勝つための作戦で頭を悩ませていた。
アリアは眠くなったという理由で、既に床に就いてしまっている。
かなり下僕たちの意見を尊重する魔王だったが、今回もそれが悩みの種となっているようだ。
「どうするの、リヒト? 時間はないみたいだけど」
ドロシーの言葉を聞いて、さらにリヒトは深く考え込む。
東の魔王がいつ攻撃してくるか分からないため、作戦をゆっくり考えられるような時間はない。
先手を取るためにも、明日にはこちらから攻撃できるようにしておきたかった。
「わ、私が特攻してもいいですよっ! それくらいの役には立ちたいですし!」
「いや、ロゼがそこまでしなくてもいいと思う……」
「特攻なら私の役目なの。任せてほしいなの」
「一旦特攻から離れないか?」
妙に特攻することが好きなディストピアの下僕たち。
ロゼの自己犠牲の精神は、ここでも発揮されているようだった。
フェイリスが特攻する作戦は、なかなか効果的かとも思われたが、出来れば手の内は最後まで隠しておきたい。
切り札を一番最初に見せてしまっては、結果的に自分たちが不利になってしまう。
「正面から戦うとしても、七人ってのは少ないよなぁ」
「……ディストピアを手薄にしていいんなら、ボクの死霊を使うこともできるんだけど」
「死霊……意外といいかもしれないぞ。数百体規模の死霊なら、流石に無視はできないだろうし」
特攻から少し離れたところで。
まず名乗りを上げたのはドロシーだった。
死霊を使った戦いは、ネクロマンサーであるドロシーの得意分野だ。
いくら東の魔王と言えど、数百体の死霊を相手にした経験はないだろう。
どのような人材が揃っているのかは不明だが、間違いなく混乱はするはずである。
その隙ができるだけで、流れはディストピア側に傾くはずだ。
その代償としてディストピア自体が手薄になってしまうが、勝利のためには必要な犠牲であった。
「お姉さま。イリスたちはどうしたらいいの?」
「私たちは……死霊と一緒に精霊を向かわせればいいんじゃないかしら?」
「分かった、お姉さま」
「あのー、私は何をすれば良いのでしょうか……」
イリスとティセの仕事はすぐさま決定する。
死霊たちの中に【妖精】と【精霊】を潜ませていれば、トラップとして高確率で相手が引っかかるであろう。
不安そうにしていたイリスも、役割が見つかったことでホッと息を撫で下ろす。
フェイリスは、常にリヒトのそばにいろと命令されているため、特に心配している様子はない。
ソワソワとしていたのは、ロゼただ一人だった。
「ロゼは……どうすればいいんだろう」
「このままだと特攻しか残っていないなの」
「や、やはり特攻した方が――!」
「――いやいや! 絶対役割があるはずだから!」
普段からディストピアのため尽力しているロゼに、特攻させるような真似はさせられない。
リヒトは、無理矢理にでもロゼの役割を当てはめようと努力している。
「お姉さま、ロゼがかわいそう」
「そうね、イリスちゃん。きっと役割はあるはずなんだけれど……」
「お姉さま。お色気で相手の気を引くってのはどうかな?」
「それは……あんまりじゃないかしら」
「……私、やります」
「頼むから落ち着いてくれ」
悲しそうなロゼの姿を見て、イリスとティセも参戦するが、それでも良案が出てくることはなかった。
お色気というのは、華奢なロゼから最もかけ離れているものだ。
ティセが担当した方が、圧倒的に効果があるだろう。
覚悟を決めたように了承するロゼであったが、ある意味特攻よりもしてほしくない。
リヒトは血迷っているロゼを説得して、納得できる代案を模索する。
今の飢えているロゼに下手な意見を出してしまうと、逆に迷走から抜け出せなくなるだけだ。
そういう意味では、最初よりも数倍慎重になっていた。
「そうだ。ロゼはコウモリに変身できたなの」
「フェイリス。覚えてくれているのは嬉しいですけど、それは役に立たないでしょうから――」
「……いや、そう決めつけるのはまだ早いかもしれない」
リヒトは何かを閃いたようにロゼを止める。
「ロゼ。今からコウモリに変身するってことはできるか?」
「いいですよ――えい」
リヒトの言葉に従って。
ロゼの体は、指先から刻まれていくかのようにコウモリへと変貌していく。
それは、一匹の大きなコウモリになるというわけではない。
腕一本分で、小さなコウモリ十匹への分裂だ。
全ての部位がコウモリに変わるまでに要した時間は十秒ほど。
そして、分裂し終わった数十匹のコウモリは、各々が自由に領域の中を飛び回っていた。
「こんなこともできたのか……」
「懐かしいなの。昔、この状態のロゼと追いかけっこをしていたけど、永遠に捕まえられなかったなの」
「そりゃあそうだよな」
ある程度飛び回ると、数十匹が群れをなしてリヒトの目の前まで集合する。
元々一人の体であったというだけあって、その統率力は見事なものだ。
集まったコウモリたちは、羽音を立てながら融合し、見慣れた華奢な女の子へと戻った。
「――という感じです」
「これは使えるかもしれないぞ……」
「ほ、本当ですか!?」
ロゼの顔が今日一番に明るくなる。
ジリジリとリヒトに近付き――つま先とつま先がくっつきそうになったところで、ようやくロゼは足を止めた。
「え、えっと……潜入係なんてどうかな?」
リヒトの言葉に、ロゼの目の色が変わる。
距離感のせいでかなり自信なさげな言い方になってしまったが、提案自体は好感触のようだ。
「なるほど。私が東の魔王の元まで忍び込み、一騎打ちに持ち込むということですね。確かにそれなら意表をつけるでしょうし、時間も稼げそうです」
「いや、そこまでしろとは言ってないけど――」
「分かりました! 頑張ります!」
元気の良い返事が、リヒトの言葉を止めるように響いた。
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