第29話
「――へぇ。じゃあ、エルフと竜人とは、もう仲良くなれたんだ」
「そうだよ。特に竜人なんて、不自然なくらいに感謝されちゃってさ」
「竜人と仲良くなれるとは、流石のボクでも予想できなかったなー。リヒトが何をしたのか、気になって夜も眠れないよ」
定期的な死霊確認の最中――ドロシーとリヒトは、他愛のない世間話で盛り上がっていた。
様々な種族がいるこのディストピアで、人間という共通点から共に行動する機会が多くなっているらしい。
人間特有の悩みなども共有できる、リヒトにとって親友とも呼べる存在だ。
「でも、最近の魔王様は外の世界に熱心みたいだね。もしかして、世界を支配しようとしてるのかな?」
「……分からないけど、百年前に痛い目を見たらしいから、その教訓が生かされてるのかもな」
世間話の続きとも言える流れで、ドロシーは最近のアリアを話題に出した。
エルフや竜人という例があるように、今のアリアは他種族を受け入れる傾向にある。
どっちにしろ命令に逆らうつもりは無いため、無駄な考察となるのは確実だが、それでも気になってしまうというのが人間の性だ。
話は少しずつヒートアップしていく。
「百年前……そういえば、そんな話があったね。それについて聞くのはタブーだったっけ?」
「ああ。この前聞こうとしたら、怒って部屋に閉じこもられたよ」
「やっぱり何かあったんだろうね……」
「戦力を増やそうとしているのも、本当にその影響かもしれないな。力で支配するようなことはしていないし」
「うーん……」
人間二人による何の根拠もない考察は、自分たちでもどこへ向かっているのか分からなくなり始める。
実際、本人たちも本気で解明しようとしているわけではなく、一つの暇潰しとして楽しんでいるだけだった。
「戦力で考えたら、まだ人間の国には勝てないのかな。総力をぶつけられたら、数の差で押し切られそうだし。まあ、今の人間界のことはあまり知らないんだけどね」
「これは噂でしかないんだけど、国王が何かを隠し持ってるって話を聞いたことがあるな」
「何かって、武器とかモンスターとか?」
現在のディストピアと人間界を比べると、どうしても人間界の方に軍配が上がってしまう。
個人の強さは圧倒的だとしても、それが潰されてしまうほどの数的不利だ。
群がるアリのような強さを、人間たちは持っていた。
「それが分からないから怖いんだ。一応アリアに報告しておいたから、何か対策は考えてくれていると思う」
「調査でも出来たらいいんだけどね。リヒトは顔が割れてるし、ボクが行っても厳しそうだ」
「あ、リヒトさんにドロシーさん。こんにちはー」
ちょうど議論が煮詰まってきた頃。
何やら急いでいる様子のロゼが、コウモリと共に現れる。
「あれ? 魔王様から招集がかかっていますけど、急がなくて大丈夫なんですか?」
「え!? もうそんな時間なのか!?」
「何だか大変みたいですよ。東の方にいる別の魔王に喧嘩を売られたんだとか」
「……ちょっと話し過ぎたみたいだね。急ごう、リヒト」
リヒトたちが適当な話をしている間に、戦いの次元はさらに大きくなっていたらしい。
詳細を聞くために、三人は急いでアリアの元へ向かうことになった。
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