第7話

 リヒトは、フェイリスに言われた通りの領域に入る。

 そして、そこでは二人のハイエルフがくつろいでいた。


 姉の方は優雅に紅茶を楽しみ、妹の方は頭を姉の太ももに預けている。


 この領域は何故か自然に溢れており、湖まで存在しているほどだ。

 間違いなく、このディストピアで一番美しい領域と言えるだろう。


 そんな場所でハイエルフがくつろいでいるため、絵画のような光景がそこに広がっていた。

 リヒトは、一瞬だけ目的を忘れて見とれてしまう。


「お姉さまお姉さま、お客様が来てる」


「あら本当。何も用意できなくてごめんなさいね」


「い、いえ、お構いなく……」


 最初にリヒトに気付いたのは、膝枕されている妹の方だ。

 短い金髪を揺らして、スっと流れるように立ち上がる。


 姉の方も、太ももの上の重りが消えたため、長い金髪を同じように揺らして立ち上がった。


(妹の方がイリスで、姉の方がティセ……だったよな)


 リヒトは絶対に名前を間違えないように、頭の中で何回も名前を確認する。

 姉妹というだけあってかなり雰囲気が似ているため、気を抜くとすぐに間違えてしまいそうだ。


「リヒトさんでしたよね?」


「え? どうして知って――」


「魔王様との会話が聞こえてきましたの。盗み聞きするつもりはなかったのですが」


 そんなことを考えているうちに、二人との距離は段々と近付いてゆく。

 いつの間にかすぐそばまで迫られていた。


「それで、どのような用事でこんな所までいらしたのでしょうか?」


「お姉さまお姉さま。きっとイリスたちの様子を見に来てくれたんだと思う」


「あらあら……本当に申し訳ないです」


 リヒトの答えを聞くまでに、二人の間で話が完結してしまう。

 本来の目的は、守護領域などのことに関して聞くことだったのだが、このままだと本当に様子を見るだけで終わりそうだ。


「えっと……皆さんの負担を減らすための調査に来たんですけど――」


「負担……? お姉さま、どうする?」


「詳しく聞きましょうか」


 負担という単語に。

 二人の顔色が変わったような気がした。



*****************



「なるほど。私たちのために、リヒトさんが立ち上がってくださったのですね」


 一通りの話をすると、ティセは納得するように頷く。

 フェイリスほどのリアクションではないが、協力的な立ち位置に立ってくれている。

 ゆったりとしているこの領域でも、負担はやはりあるようだ。


「確か、この領域をお二人で担当されているんですよね?」


「はい」


「それなら、役割を分担してどちらかが別の領域を――」


「――ダメ!」


 リヒトが提案を言い切る前に。

 ティセの後ろにいるイリスから、明らかな拒絶の反応が返ってきた。


 ティセの服を掴むイリスの手が、更にギュッと強く握られる。


「……と、こういうわけなのです。それに、私とイリスは一緒にいることで強さを発揮できるので、離れるというのは現実的ではないかもしれません」


「……分かりました」


 ここで、リヒトが考えてもいなかった問題が生じた。

 単純に役割を分担するというだけでは、この問題は解決しないらしい。


 二人が一緒にいることで機能するというなら、それを破壊するのはあまりにも愚かな行為だ。


「もう少し考えてみます」


「無理せずに、お体には気を付けてくださいね」


「イリスも応援してるから……がんばって」


 問題解決に、遠のいたようで近付いた気分だった。


 ティセとイリスに見送られながら、リヒトは四人目の下僕の元へ向かうことになる。


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