第3話

「俺は……何で死んでないんだ……?」


 リヒトは、崖の下で何事もなかったかのように目覚める。

 記憶を失っているということはない。

 しっかりと、心臓を突き刺されて崖から落とされたという過程を覚えていた。


「処刑失敗? いや、そんなはずはないよな……」


 リヒトの中で真っ先に出てきた考えは、すぐさま自分に否定される。

 あれだけ確実な処刑方法でミスをするなど、ど素人でも有り得ないだろう。


 崖の高さも200メートルはくだらない。

 普通なら、ここから落ちただけで確実に死んでいるはずだ。


「――傷が無い? どこにも無いぞ! 何で……?」


 そこでリヒトは、自分が全く怪我をしていないことに気付く。

 200メートルの高さから落ちたのにも関わらず、かすり傷一つ見当たらない。

 そもそも、心臓を貫いた傷も完全に塞がっていた。


「まさか……」


 この現象――実は一つだけ心当たりがある。


「《死者蘇生》のスキルに似てる……」


 リヒトのスキルである《死者蘇生》にそっくりだったのだ。

 これまでに何度も使ってきたスキルだが、蘇生させられた相手は、今回のリヒトのように万全の状態で蘇ることができる。


 《死者蘇生》が使用されたとしか思えなかった。


「――一体誰が……いや、このスキルを使えるのは俺しかいないはず」


 リヒトは困惑する。

 この世界に、全く同じスキルは存在しないはずだ。


 そもそも、この場にはリヒト以外誰もいなかった。

 こうなると、自分が自分に《死者蘇生》を使用したとしか思えない。


「自分が死んだ時にも発動するのか。初めて知った――って、当たり前だけど」


 結局、リヒトはそう結論付ける。

 自分で自分にツッコめるほど、リヒトの心は落ち着いていた。


「とりあえず、どこかに行かなくちゃ……」


 現状を把握したリヒトは、ひとまずこの処刑場から離れる。

 国にはもう帰れないため、どこかに身を隠すかしないといけない。

 追われるようなことはないだろうが、見つかってしまえばまた処刑されるだろう。


 安全な場所が必要だ。

 そして、その当ては一つだけあった。


「よし、ダンジョンに行こう」


 このリヒトの判断が。

 後に人間界を苦しめる魔王軍の始まりになる。


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