第4話

「ここか……」


 リヒトは、古びたダンジョンの最深部で呟く。

 これまでの道のりで、モンスターと出会うことはなかった。


 やはり、このダンジョンは完全に機能していないらしい。


「こんなに広いダンジョンなのに、何だか勿体ないな」


 それは、自分でも意図せずに出てきた言葉であった。


 最深部に辿り着くまでの時間で、このダンジョンの大きさというのが大体予想できる。

 敵がいない状態であるにも関わらず、ほぼ丸一日かかったことから、かなり大きなダンジョンであることは明白だ。


 それほど立派なダンジョンでありながら、誰にも使われることなく風化していくことに、リヒトは寂しさを感じてしまう。


(なんて言ってても仕方ないか。そんなことより――)


 ふと、リヒトは本来の目的を思い出す。

 その目的とは、この場で死んだ者を蘇生させることだ。


 これから生きていくために、仲間を作る必要がある。

 このダンジョンはかなり大型であることから、いにしえの実力者が眠っていてもおかしくないだろう。


 《死者蘇生》のスキルであれば、何年も前の死人でも復活させることが可能だった。

 たとえ死体がないとしても、魂さえあれば元通りにできる。


 あの老人が恐れていたスキルの悪用であるが、今のリヒトにそんなことは関係ない。

 むしろ、復讐という意味でも更に気合が入った。



「《死者蘇生》」


 リヒトはこの地に眠る魂を探る。

 その瞬間、吐き気を催すような何かがリヒトの精神を襲った。


 並の冒険者であれば、この段階で死んでいてもおかしくない。

 逆に自分の魂が抜き取られてしまいそうな感覚だ。

 明らかに人間を蘇生する時の反応ではなかった。


「――わっ!?」


 突然、地面が爆発する。


 偶然巻き込まれないような位置にいたから良かったものの、運が悪ければこの爆発で死んでいただろう。

 何度もスキルを使ってきた経験上、このような復活の仕方は常軌を逸していた。


 それも、一人だけではない。

 合計で五人分の魂が、《死者蘇生》によって復活する。


「おぉ! 本当に復活したぞ! やったのじゃ!」


「やりましたね、魔王様」


「……肉体も復元されてるなの」


「お姉さまお姉さま。嬉しい」


「そうね、イリスちゃん」


 復活した五人それぞれが口を開く。

 どうやら全員が復活したことを喜んでいるようで、今リヒトが入り込めるような隙はなかった。


 しかしそんな状況でも、真ん中の女性が発した一言だけは聞き逃すことができない。


 確かに女性は魔王と言ったのだ。

 魔王と呼ばれた少女も、否定するような素振りを見せていないことから、嘘ではないと読み取れる。


 そんなことを考えていると、ようやく一人にリヒトが気付かれた。


「魔王様。もしかしてこの御方が、私たちを復活させてくれたのではないでしょうか?」


「なんじゃと――とにかく、お主らは誰も近付けんように守護領域についておれ」


 魔王と呼ばれた少女は、手馴れたように残りの四人を最深部から出させる。

 守護領域と言っているところから、元々このダンジョンは魔王のものだったらしい。


 その四人は特に意見することなく、あっという間に二人きりの状況になってしまった。


「……さて、本当にお主が儂らを復活させたということで良いのじゃな?」


「あぁ」


「どうやってやったのじゃ? 儂らが死んだのは百年ほど前じゃぞ? ネクロマンサーでも、死体がなければ蘇生させることはできんし」


「俺も予想外だったんだ。というか、自分でもこのスキルがどうなっているか分からない」


 リヒトは、魔王の質問に正直に答える。

 《死者蘇生》のスキルがコントロールできていないのは、紛うことなき事実だ。

 今分かっているのは、この能力が自分にも使用できるということだけであった。


「アハハ! 面白い奴じゃのお。じゃが、死者を蘇生できるのは本当らしいな。儂の仲間になってくれんか?」


「良いのか……?」


「あぁ、どうやら困っておるようじゃからな。何の事情があるかは知らんが、単純に復活させてくれたお主の力になりたいのじゃ」


 こうして。

 リヒトは、いにしえの魔王軍の一員となった。



 人間界では忌避された《死者蘇生》のスキルも、魔王軍では主力級になるほど重宝されることになる。


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