7

 以前夢の中で会った彼女は、現実で会ったことはない。名前も知らない。夢の中でしか会うことのできない存在だった。

 僕の夢なのだから僕が彼女をつくっているのかもしれないし、違うかもしれない。僕にとってそれはどちらでもよかった。

 今大切ことは、また、夢の中で彼女に会ったということだ。

 前回と同様、夜の砂漠を歩いていた。

 相変わらず彼女の顔がわからない。

「どうして大人に憧れてるの?」

 どうやら前回の夢の続きらしかった。

「わからない。でも、大人になったらいろんあことがちゃんとできるようになると思うんだ」

 僕は彼女の正体を知ることを諦めた。

「私は年齢上大人だけど、何もちゃんとできることなんてないよ」

 そうか、彼女は大人なのか。

「何も? 何もちゃんとできることがないの?」

「ねぇ、あなたは今を大切にしたほうがいいよ」

 相変わらず僕の質問は届かない。

「大切にしているよ」

「もっと、ちゃんと今を見つめたほうがいい」

 彼女は切なそうな声を出した。


 そこで目が覚めた。

 今を大切にしたほうがいい。

 彼女はそう言った。どうしてだろう。どうして僕が今を大切にしていないと思ったのだろう。


「僕たちは今を見つめたほうがいいらしいよ」

 昼休み、いつものベランダで夢の中の彼女に言われたことを思い出しながらシオンに話を振った。

「私は見つめてるよ。いろいろ」

「例えば?」

「今の空とか、今私がここにいることとか、今の修平とか」

「今を見つめるって、そういうことなの?」

「違うの?」

「なんていうかさ、もっと大事なことがあるような……」

「今の空は大事じゃないの?」

「それはともかく、僕が大事なの?」

「私にとっては、とっても大事だよ。だって修平いなかったら、多分私学校来れない」

 僕がシオンの中でそんな存在だったなんて知らなかった。でも、考えてみれば当たり前なのかもしれない。僕だって、彼女がいなかったら独りぼっちだ。

「なるほど、じゃあ、僕は今のシオンを見つめればいいのかな」

「修平にとって、今一番大切なことを見つめるんだよ。心の中で、一番大切なこと」

 彼女は賑やかな校庭を眺めてそう言った。

 僕の中で一番大切なこと。

 それは、憧れの大人になるための準備をすることだと思っていた。

 でもたった今、それより大切なことを心の隅……いや、心の中心(なんて言うとベタ過ぎるが事実だからしかたない)に、見つけてしまった。

 それがモヤモヤの正体なのかもしれなかった。

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