6
昼休み、いつものようにシオンのいるベランダへ向かう途中、ヒロトが僕を追いかけてきて、そのまま並んで歩いた。
「ヒロト、図書室?」
「うん、修平は、またベランダで本読むんでしょ?」
「うん」
彼は、僕がベランダで本を読んでいると思っていて、シオンに会っていることは知らない。
ヒロトはそのまま図書室のある下の階に下りていった。
彼はたまに軽く話しかけて軽く別れていく。その軽さが、僕は好きだった。
ベランダに着いて扉を開けると、彼女は体育座りをしていた。スースーと安らかな寝息をたてている。
僕は起こそうとして、けれどそのまま寝かしておくことにした。
僕もシオンと向かい合うように体育座りをして、シオンが起きるまで小説を読んでいた。
昼休み五分前のチャイムが鳴っても彼女は起きなかった。僕はなんとなく彼女を起こせなくて、そのまま昼休み終了のチャイムが鳴ってしまった。
さすがに起こそうとした時、彼女はふひふひいいながら体勢をくずし、彼女は僕に寝顔を晒してきた。
シオンの寝顔をみて、僕はよけいに起こせなくなってしまった。その寝顔はなんだか……なんというか…………ずっと、眺めていたいと思わせるのだ。
たまには授業をすっぽかしてもいいか、まだ子供だから一度くらいサボっても許されるだろう。
ついにそう割り切って、僕はずっとシオンの寝顔を眺めていた。
彼女がまたふひふひいって、そしてやっと目を覚ました。その頃にはもう、六時間目も終わってしまったあとだった。奇跡的に、誰も探しに来なかった。
「……修平、あとどれくらいで昼休み終わる?」
なるほど、彼女は自分が寝ていたのは一瞬だと思っているのだ。
「今、放課後だよ」
きっと跳ね起きて、ええええ! とかいうふうに驚くだろうなと思ったのに、彼女は「ああ、そう」と言って欠伸をしただけだった。
「修平もずっとここにいたの?」
「そうだよ」
「どうして? 起こすか、授業に出るかすればよかったのに」
彼女の寝顔をみていたかったからずっとここにいた、なんて言えない。
「たまにはサボってもいいかなって思ってさ」
彼女は自分の不思議ちゃんはそっちのけで「ふーん」と不思議そうな顔をした。
それから、ふたりで教室に戻って荷物をまとめて昇降口まで来て、担任に捕まった。
いろいろきかれて静かに叱られて(バッカモーン! と言われると思っていた)、素直に謝って、次からは気をつけるようにと言われて開放された。
「じゃあ、また明日ね」
シオンにそう言うと、彼女は少し嬉しそうに微笑んで、手を振って走って行ってしまった。
僕の中で、何かが変わってる気がする。でも人は変わってゆくものだから、きっとそれは当たり前のことで、でもなぜかモヤモヤしたものが心がありそうなところに溜まっていた。それは切ないような寂しいような、けれど嬉しくてウキウキするような、一言では言い表せない感情だった。
それをふっ飛ばしたくて、シオンとは逆方向に、彼女と同じように走って帰った。
けれど、その言葉にできない感情は消えなかった。
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