5
学校帰り、先程まで青がみえていたのに今はどんよりとした雲で覆われた空は、なんだか重さを感じた。
彼女とは帰り道は真逆なのでいつもひとりで帰っている。
家までの道を歩きながら、いつも頭は想像やシミュレーションの世界、もし王国へと羽ばたいてしまう。それで以前自転車に跳ね飛ばされそうになったことがあったから、少しは現実に意識を向けるようにしなければならない。
でも今日は何も想像していなかったしシミュレーションもしていなかったし、もし王国へも行かなかった。
彼女の手の感触を思い出していた。普段はあまり意識しないけれど、手に触れた時、彼女が女の子であるということを実感した。自分の手とはまるで違う物のように思えた。あんなに、すぐに壊れてしまいそうなものなのか。知らなかった。
彼女の手に僕が触れてしまったことで彼女の手は壊れていないだろうかと心配しているところ、ぽつりぽつりと雨が降り出した。傘を持っていなかった僕は雨宿りでもしようかと考えたけれど、雨に打たれるのも悪くないと思い(ドMとかではない)そのまま歩くことにした。
雨は本格的に降り、僕の髪や制服を容赦なく打ち付けて濡らしていった。
家に着くとすぐにシャワーを浴びて湯船に浸かり、茹でダコにならないうちにあがった。
丁度母からの「ご飯だよー」が聞こえて、着替えてすぐにリビングに向かった。
夕飯を食べ終えて宿題を終わらせて、僕は自分が大人になった姿を想像した。ちゃんと、僕の憧れる大人になっているだろうかとか、隣には誰がいるだろうとか、変わらずシオンとは友達だろうか、親友だろうか、それとも……。
そんな「もし」を妄想をしているうちに、机に突っ伏したまま眠ってしまった。
僕は砂漠を誰かと歩いていた。日が沈んで真っ暗で、隣の人の顔はよくわからなかった。けれど髪の毛が長いのと胸元がふっくらしてる(そこに興味があってみたわけではない)ので、女の人だとわかった。
「あなたは、どうして早く大人になりたいの?」
彼女は僕が早く大人になりたいと思っていることを知っていた。けれど、その声に覚えはない。
「あなたは、誰ですか?」
「……ねぇ、どうして早く大人になりたいの?」
彼女は僕の質問にこたえる代わりにもう一度同じ質問を投げかけてきた。
「どうしてって……」
「どうして?」
しつこい。まるでシオンみたいだと思った。けれど声が違うからシオンではない。
「大人に憧れているからだよ」
言いながら次はどうして憧れているかをきかれるだろうと思ったけれど、きかれることはなかった。
目覚まし時計が鳴って、僕は布団から起き上がった。夢をみていた。少し不思議な夢だった。知らない人が夢に出てくるなんて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます