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  僕らが昼休みに会う場所は、まるでそこだけが切り取られたみたいで居心地のいい三階のベランダだ。そこからは校庭を見下ろすことが出来るし、空を近くに感じられる。僕が小説を読むのに静かな場所を探してたまたまここへ来た時彼女もたまたまここにいて、それから彼女と僕で過ごす昼休みが始まった。

 僕と彼女がここで会っていることは周りの人には知られていないので、僕らが「付き合ってる」だの何だのとからかわれることもなかった。というか、付き合っていたとして、どうしてからかうのだろうか。やっぱり、そういうところでまだ子供だなと思ってしまう。それらと同じ学校にいるということは、僕もまだ子供なのだと思う。

 ちなみに僕らの関係は、先程も述べた通り友達だ。彼女といるのは彼女との会話が好きだからで、べつにそれ以上の関係を求める必要もない。でももし、彼女に対して恋愛感情が芽生えて彼女も僕に恋愛感情が芽生えたなら、恋人になってもいいのだと思う。

 僕はその「もし」を頭の中でシミュレーションしてみたけれど、今の関係と大きく変わることはなかった。少し、彼女の手に触れてみたくなった。

 思考がそのまま言動になることはよくあることだ。

 僕は思考のままに彼女の手を取ってしまった。

 彼女が驚いて「どうしたの?」と言って、我に返り、慌てて手を引っ込めた。

 さすがに三回も無視すると悪いなと思い、適当に理由を考えた。

「……虫が付いてたから」

 彼女は「ふーん」と言って、少し笑った。

 そこで昼休み終了五分前のチャイムが鳴った。

 昼休みが終わると僕らは教室に戻る。他のクラスメイトに「付き合ってる」とからかわれないように彼女に先に教室に戻ってもらって、僕はのそのそと小説を読みながら教室へ向かう。

 教室へ入ると、彼女はすでに一番前の窓際の席に着いて、窓から先程のように空を眺めていた。

 彼女の席と同じ列の一番後ろの僕の席に着き、次の授業の準備をする。

 そして授業が開始されるまで、空を眺める彼女の背中をぼんやりと眺めて過ごす。その背中はなぜだか夜空に無数に広がる星を連想させる。背中だけではない。彼女の存在そのものが、僕の頭にそれを浮かべさせる。そうさせる理由はわからないけれど、それは彼女が不思議ちゃんだからという理由ではないことはたしかだ。彼女がどこか遠くの小さな星からやって来たから、なんていう理由の方が納得できそうだ。

 もしそれが本当だとしたら、彼女は本当の静寂を知っているのかもしれない。

 その「もし」を頭の中でシミュレーションしてみると夜の砂漠で出逢う僕と彼女が浮かんだけれど、そうなると彼女は蛇に噛まれてしまうかもしれないのですぐに頭を現実に戻した。すると、隣に気配を感じた。

「また本読んでたの?」

 ひとり、シオン以外に気軽に話しかけてくれるクラスメイトがそこに立っていた。

「ヒロトも、図書室で読んでたんでしょ?」

 彼はうんと頷いた。

 彼とは本を読むという共通点から仲良くなった。

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