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「そう言えば、学校は楽しい?」

 小学校に行っていなかった彼女のことを思い出して、きいてみた。

「どうかな。楽しいような退屈なような。でも、嫌ではないかな」

 彼女がそう言って安心した。実は、僕は彼女と話をする昼休みの時間を気に入っている。だから、もし学校に行きたくないなんて言われたらどうしようと、少し心配していたのだ。

「そっか。シオンがそう思っててくれてよかったよ」

 彼女は不思議そうな顔をして(彼女は不思議ちゃんだから常に不思議な顔をしているのかもしれない)、それから少し笑った。

「なに? なんか教師みたい。学校が嫌じゃないって言ってホッとするなんて。……あ、もしかして私と話すのが実は楽しいとか?」

 図星だったけれど、彼女がよく質問を無視する仕返しに無視をお返ししてあげた。

 ふたりが黙って沈黙が訪れる。けれど静寂は訪れず、校庭で昼休みを満喫する少年少女の楽しそうな声が聞こえていた。

「なかなか、ちゃんとした静寂ってないよね」

 思ったことをそのまま呟くと、彼女は「んー?」と空に流れる雲を眺めながら言った。もしかすると、あの雲の上は静寂が広がってたりするのだろうか。そうだ、宇宙は空気がないから、きっと宇宙へ行けば完全なる静寂を味わえるだろう。

 よく大人の人が宇宙に行って何やら調査をしているというニュースを聞く。僕も大人になったら、宇宙へ行けるだろうか。

「本当に本当の静寂があったら、私はその静寂の中にはいたくないな」

「どうして?」

 先程無視をされたことで無視されることのつらさを思い知ったのかいつもの気まぐれなのか(後者の気がする)、僕の質問に珍しく口を開く。

「だって、静寂って、怖いでしょう?」

 静寂が怖い。わかるようなわからないような気がして考え込んだ結果、無視という形になってしまった。けれど彼女は続けたから、沈黙は訪れなかった。そんな何人も沈黙が訪れるともてなすのが大変だからよかった。

「でも、音のないことに怯えながら、それでも雑音のない世界で生きたいなら、静寂は魅力的なのかもしれない」

 やっぱり、彼女は不思議ちゃんだった。

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