1
人は過去に戻れるのなら恥ずかしい失敗やくだらない過ちをなかったことにしたいことだろう。特に子供は。子供は酷いもので、人の過ちを肴に大笑いするものだ。
そういう話をクラスメイトと話している時に持ち出すと、みんなわけのわからない顔をする。
それは彼女も例外ではなかった。
「過去に戻れるなら、車で轢かれたうちの猫を助けたいな」
「その猫は、でも、そのうち死んでしまうんだよ」
彼女は顔をしかめる。
「でも、もっと長生きできたよ」
「猫がすすんで轢かれに行ったという可能性は考えないの?」
「そんなわけないでしょ」
「それは猫に確認したの?」
「それはしてないけど……」
「じゃあその可能性も考えなくちゃいけない」
そう、人は自分の都合のいいようにしか考えない。特に、子供は。大人になったら多少は頭も良くなって、いろいろな場合を想像できるはずだ。だから、僕は早く大人になりたい。
彼女はうーんと考えてから、「それでもやっぱり、助けたい」と言った。
「それはきっと、自分が悲しみたくないからだ」
人はみんな、悲しみを恐れている。特に、子供は。子供は楽しいことばかりを考えている。だから、時には相手のことを考えられず、傷つけてしまう。自分は悲しみたくない。そう思ってるから。でも大人になったら、悲しみも受け入れられるんだと思う。僕は悲しみの中に幸せが隠れていると思っている。だから、幸せになりたいなら、自然に悲しみを受け入れることになる。
僕はそれを知っているから、多少は大人なのかもしれない。けれど、ちゃんと大人になったら今よりも悲しいことを受け入れられるようになるのだから、僕は早く大人になりたい。
「修平の話はいっつもよくわかんない」
そうやって、彼女は僕の話を理解してくれない。彼女だけでなくきっと、子供は。
子供はわかりやすい話が好きだ。なにか感想を書きましょうなんて授業でも、みんな「楽しかった」「嬉しかった」「難しかった」「面白かった」とか、そういう一言で片付けてしまう。それは、その感想の対象がなにかをちゃんと理解していないからだ。なにに対して楽しかったと思ったのか、わかっていないからだ。けれど大人は違う。大人は紙いっぱいにちっちゃな文字をずらりと、自分の思うことを書く。それはいつも、いい評価がつけられる。だから僕は、早く大人になりたい。
僕はずっと、大人に憧れている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます