第19話 面倒くさい二人
数時間後。
俺と朱音はいまだに体育倉庫の中で助けを求めていた。
「今更だけど、スマホとか持ってたり…」
「しないな……」
「だよね……。はぁ……」
「でも、もうかなり遅い時間だろ?家族くらいは心配して探しに来てくれるだろうよ」
「確かにそれはそうだろうけど……。でも、それで体育倉庫を探す?こんなとこ見つけてもらえないでしょ」
「まあ、それは信じるしかないな」
ここに閉じ込められたことは俺個人としては特に困ったことではない。家に帰ろうとここに居ようと別にどっちでもいいのだ。元々、真面目体質でもないし、どこでも寝られるような人間だからな。
まあ、朱音みたいな真面目ちゃんは早く家に帰らないとって思うんだろうけど。
でもそこは助けが来ない限りやっぱ厳しいな。
体育倉庫に抜け穴でもあればいいけど………。
「そういや、体育倉庫の中って調べたか?」
「え?調べるって?」
「いや、もしかしたらどっかからか脱出できるかもしれないだろ?」
「でも、調べるたって真っ暗だよ?目が慣れたからってうっすらとしか見えないのに」
「まあ、それもそうか」
「そもそも体育倉庫に窓とかないでしょ普通」
「まあ、確かにそうだな……。どこか床が割れてたりしてたら、そこから地面でも掘って出られればいいけどな」
「その脱獄みたいな発想は何なの?脱獄囚だった?」
「アホか。ずっと隣に居ただろうが」
「え…ずっと隣に?」
「ああ。ずっと……隣に………って!隣人ってことな!?」
「え、あ、ああ!うん!分かってるよ!?うん、お隣さんだからね!あははは……」
たまに出るこいつのガチトーンの照れは何なんだよ……。
はぁ……。俺はラノベの主人公ほど、鈍感ではないんだよなぁ……。
「………でも、そうだよね……」
「ん?」
「いや……こうして考えて見ると、ずっと側に居てくれたんだな……って……」
「居て……くれた……?」
「ん?」
「え?」
「…………」
これは……確定でいいんだろうか?
「お前さ。成績は良いんだろうけど、たまにバカと言うか、アホだな」
「……あ……あ…あ……あぁああ!!違う!別に深い意味は無くて…!!」
「お前さ…」
「だから、違うの!別になにもないから!あれはなんか別のこと考えてて!それでなんかよく分かんないこと言っちゃってて!!それで…」
「俺のこと好きなの?」
「…あ………」
「……………」
ついに聞いちまったな………。いや、これ聞かない方が良かったやつか?でも、確かにここまで言っといて俺の勘違いだったら死ぬレベルの恥ずかしさなんですけど。
「………そりゃ………」
「……………」
「……好き………」
「……………」
「な…」
「な?」
「なわけ……」
「なわけ?」
「好きなわけ………あるかぁああ!!!!」
「は、はぁ!!?じゃあ今の雰囲気なんだったんだよ!?」
答えはまさかの否だった。
「あんたが変なこと言うからでしょ!?何!?あんたの方こそ私のことそんな風に思ってたわけ!?小説や漫画の読みすぎなんじゃない!?幼馴染みだし、自分のこと好きなんじゃないか、なんて思ってたわけ!?」
「いやいやいや!!さっきだってお前がそんな感じの雰囲気漂わせてたし!今までだってそういうフラグ立ててたろうが!!」
「はぁ!?私がいつそんなフラグを!!」
「この前俺の家でシャワー浴びた時とかフラグのオンパレードだったじゃねえか!!」
「はぁ!?そんな記憶全くございませんが!?記憶障害でも起きてんじゃない!?」
「あーそうだな!!あの時めちゃくちゃビンタされたからな!!?そうなのかもしれませんね!!」
「何!?何か文句でもあるわけ!?あれはあなたの自業自得でしょ!?」
「ほーら見ろ。覚えてるんじゃないか。何が記憶にありませんだ!そんな言い逃れして!お前は政治家か!」
「は?何なのあなた。もう言ってることが滅茶苦茶だし論点がずれてますけど?こんなんだから勘違いするのよ。バーカ」
「ああ。そうかよ。確かにな。論点がずれていたのは謝るよ。それじゃ本題に戻そうか?お前は何であの時もこの時もいつだって俺を変に意識してたのかな!?はい、その理由を述べよ」
「そ、それは!!だから!いろいろあって…!別のこと考えてて!!」
「苦しい言い訳だな。お前の方こそ言ってること滅茶苦茶だぞ?」
「うぅ…!とりあえず、何でもないから……!違うもん……!もう、本当面倒くさいなぁ」
「面倒くさいはお互い様だ。……はぁ。もういいよ。お互い何も聞かなかったことにしようか。今はとりあえずこの状況をどうするか考えよう」
こうして俺と朱音の謎の言い争いは終焉を迎えた。
しかし、こいつの反応からしてもうバレバレなんだよな……。なんか気まずいかも。
「……最後にひとつだけ言わせて」
「何だ?まだ文句でも?」
「嫌いです。以上」
「………ああ、そう」
嫌われたようだ。よく分からんけど。
まあいっか。
「まぁ……それじゃあ、どうするよ?この状況は。穴堀りでもするか?」
「絶対無理。体育倉庫の床はコンクリートだし厚いのよ?たとえ割れてても地面まで見えないって」
「じゃあどうすんだ?助けを待つったって、誰も来ないぞ?さっきまであんなでかい声で言い争ってたのに誰も来てないのが何よりの証拠だ」
今が何時かは分からないけど、まだそう遅くないのなら何人か先生が残ってそうだけど。
でも、ここグラウンドだしな。大声出しても校舎内の人達には聞こえないか。
「手の打ちようがないってことね。なら自然にすることは決まるじゃない」
「そうだな。助けを待つのみだ。その間、暇なのが問題だけど」
「そこは問題じゃないでしょ?もし明日まで見つけてもらえなかったらどうするつもり?」
「え?別に気にしないけど」
「ご飯は!?お風呂は!?寝るときどうするの!?」
「あー……確かに腹は減るかも」
「だけ!?」
「他はそこまで重要じゃないしな。空腹は死ぬこともあるかもしれないけど。他は死にはしないだろ?それに、眠いなら寝ればいいことだしな」
「それはそうかもしれないけど少しは気にしなさいよ」
「でも今は緊急時なんだ。それくらい我慢しろ。最悪、ここで一夜を明かすかもしれないんだからな」
でも、確かにこのままここで過ごすのも限界があるよな。てか、なんなら明日も学校だし。このままじゃ明日の準備もできないな。
「あぁ。もういろいろ考えてたら疲れてきた」
「どこでも寝られるんなら寝とけば?どうせ明日までこのままだろうし」
「どうした?急に弱気になったな」
「だって助けが来るなんてほぼ絶望的だもん。もういいよ。諦めました」
結構まじの方で疲れてんなこいつ。
「お前は寝ないのか?疲れたろ?」
「別に。それに、こんな砂だらけのとこで寝たくないからね」
「壁に寄りかかってならそこまで汚れないだろ」
「いいの。私は…べつに…ぁ…ふ…ふわぁ~……」
「普通に欠伸してますけど?」
「………何でいつもこうなるわけ?」
「いや、知るかよ」
こいつはいつもタイミングが良いというか悪いというか。
「俺も少し眠くなってきたし、寝るとするよ」
「え?本当に寝るの!?」
「ああ。起きてても暇なだけだ。眠ってる間に誰か助けに来たらそれはそれでいいってことでどうだ?」
「……はぁ。分かりました。じゃおやすみ」
「お前は?」
「けんちゃんが寝るなら私も寝るよ。一人で起きてたらそれこそ暇だし」
「そうか。じゃおやすみ」
こうして俺は体育倉庫で睡眠を取った。なぜ誰も探しに来ないのかは謎だが、とりあえず今日は疲れた。朱音と喧嘩したからだろうか。
まあ何にせよ。助けが来てくれるのを待つのみだ。
「…………う、うぅ…ん?……あれ?……。あ、そっか。体育倉庫か」
数時間経った頃だろうか。俺は一度目を覚ました。肩に妙な重みを感じたからだ。
「って、こいつ…」
肩の重みの原因は隣で寝ていた朱音だった。
俺の肩に頭を置いて寝ていたようだ。
「これはどっちだ?意識的にこうしたのか、それとも眠ってる間に偶然?いや、もしかして実は今も意識があって、ていうパターンも……ないな」
このシチュエーション自体は結構な王道展開なんだけどなぁ。ま、朱音に期待するだけ無駄だとは思ってるけど。
「はぁ。ため息しか出ない。本当に何もかも面倒くさいな。………寝るか」
俺はまた深い眠りについた。
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