第18話 イベント発生?

季節は夏。入学して1ヶ月近く経ち、ついに5月に足を踏み入れた。


何かと忙しい4月ではあったが、それもあって朱音との仲は修復したと言っていいだろう。

今ではお互いに友達のように会話することが出来るようになった。

もちろんお互い思春期ということもあって、昔程の仲ではないが……。


まあとりあえずその話は置いておこう。まずはこの状況をどうにかしなければならない。


そう。この状況を。


「……何でこんなことに?」

「それは俺が聞きたいね。なんであの人は中を確認することもなく鍵を閉めるのか」

「はぁ…あっつい。何でこんな時に限って外の体育倉庫なのよ!」

「そうだな。せめて体育館の倉庫ならここまで暑くはなかったか」


察しの良い人ならばこの会話や雰囲気だけで気付くかもしれない。

俺と朱音が体育倉庫に閉じ込められているこの現状に……。


少し時をさかのぼること50分前。



「よーし!お前ら!体育祭は近い!ビシビシと働……頑張れ!」

「今あの人働けって言いかけなかったか?」

「そこは流すのが正解でしょ?今まで何を学んできたの?」

「ああ、そうだな。変につっこむと俺に被害が飛んでくるからな」


今は体育の時間。5月に入り体育祭が近付いてきており、今日から競技の練習が始まった。

そして、五十嵐先生も見学という形で見に来ていた。


……え?なぜかって?

そんなことは俺の方が知りたいくらいだ。

まあそんなことはともかく、先生の目につけられないよう目立たないように動くだけだ。


そう。目立たないように、だ。

先生は居ないものとして考えれば特に目立つことはないはずだ。

そう。気にしない気にしない。そこには何もない。


「浅久」

「…………」

「おい浅久」

「……………………」

「てめぇケンカ売ってんのか!?こらぁ!!」

「…………………………………」

「ほう…自殺志願か。なるほど。進路はあの世に決めたか。一年生なのに進路まで考えているとは感心だな~、浅久」

「ちょ、ちょっとけんちゃん!?なんか先生がすごい怖いこと言ってるんだけど!?行かなくて良いの!?」

「なに言ってんだ?あそこには何も無いじゃないか。あはは、お前の目がおかしくなったんじゃないか?」


嘘だ。あんな恐ろしく尖った声が聞こえないわけがない。だが、ここで変に反応してしまうと更に危ない展開になりそうだからここはこのまま貫き通すしかない。


「………はぁ…もういい」


よしきた。諦めてくれた。


「どうせこれ以上何を言っても無視するつもりだろうが。ここで変に反応すると更に酷い目に合うと考えたな?」

「あんた何者すか?」

「お、やっと口を開いたな」

「あ……」


つい反応してしまった……。負けた……。


「フン、バカめ」

「あの……自分の思い通りになったからって生徒にバカなんて言いますかね普通」

「いいんだよ。お前は別に」

「差別だ…」


入学の時からだが、なぜか五十嵐先生はやけに俺に絡んでくる。特になにかした記憶も無いのだがなぜか俺への当たりが強いのだ。


「それで、なぜ先生はここに?」

「暇潰しに決まってるだろ」

「そんなはっきり言うことですか?」

「この時間に授業は入ってなかったからな。たまには担任として、自分のクラスの授業を見るのもいいだろ?」


他にすること無いのか?

という疑問は口に出さないでおこう。


「他にすることか?まあ無くもないが特別急いでやることは無いからな」

「あの……平然と俺の心読むのやめてくれません?」

「心を読むなんてことが出来るわけないだろ。お前は顔に出やすいのさ」

「そうですかね?」

「んで、お前はこんなとこでさぼってていいのか?早く競技の練習始めたらどうだ?」

「いや、あんたが呼んだんでしょうが」


この人たまに言ってることが……いや、ほとんど言ってることが滅茶苦茶なんだよな。


「それじゃ俺行きますんで」

「あーちょっと待て浅久」

「なんすか?」

「頑張ってこいよ」

「…………だけ?引き留めといてそれだけっすか?」

「なんだお前は。人の応援にケチつけんか?」

「あーもう、分かりました。頑張ります。それじゃ」


本当にあの先生はよく分からん。

それにしても、やっぱり俺に対してだけ異様につっかかってくる気がするんだよな。

今のこの見学だって、クラスを見るためなんて言いながら、俺を見学しに来たんじゃ……なんて痛い妄想はやめておこう。


「けんちゃん。先生と何を話してたの?」

「いや、特に何も。ただ単純に応援された」

「え?それだけ?」

「だよな。そう思うよな?引き留めといてそれはおかしいよな?」

「え?まあそうだね。それがどうしたの?」

「いや、おかしいよなって話」

「そんなに気になる?こんなこと言うのはあれだけど、あの先生って変なとこあるからそういうことで良いんじゃない?」


まあ、それで話をつけるのは簡単だけど…。


「ただ、どうにもあの先生は俺を……いや、なんというか」

「ん?」

「だから……俺に対してだけ変に突っかかってくるだろ?だからなんか…俺に何かあんのかな……みたいな?」

「それ、結構痛いよ?」

「そうはっきりと言わないでくれませんかね朱音さんや」


それにしても、やっぱり妙だ。あの先生とはこの学校で初めて会って、初めて話した。学校以外で会ったこともないし仲が良くなったイベントも何も無いはずだ。


「なんか、妙に引っ掛かるんだよなぁ」

「どこかで会ったことあるとか?覚えてないだけで」

「う~ん。あの人と?あんなキャラの濃い人いたら忘れるわけ無いと思うけどな……」


その後、授業は普段通り進んでいき、終わりのチャイムが鳴った。


クラスの皆は教室に戻り、グラウンド内は静まり返った授業後、俺と朱音は体育で使った道具を倉庫へと片付けていた。


「はぁ。なんで私達が残って片付けなきゃならないの?」

「仕方ないだろ。先生が急ぎの用事で授業の途中から居なくなったんだし」


先生というのは五十嵐先生のことではなく、体育の先生のことだ。なにやら急用が出来たらしく、授業の後半からは先生不在により自習のような形となっていたのだ。


「だからって私達がしなくてもよくない?」

「先生から直々に頼まれたんだから仕方ないだろ。つべこべ言うな」

「もう……こんなときに五十嵐先生はどこ行ったわけ?」

「あの人は授業が終わった後気付いたら消えてたよ」

「あの人、体育の先生から後のことは頼みましたって任せられてたよね?結局、ボーッとただ見てただけじゃない」

「ほんとな。最近あの人を先生とは思えなくなってきたよ」

「たまに先生だって思う、の間違いでしょ」

「ははは。信頼無いな」


そんな話をしながら俺達は体育倉庫の中に入り、使った道具を片付けていた。

が、その時。


ガシャン。ガチャン…。


「え?」

「今の……」

「ちょっと待って……。あ、開かない……」

「なけるぜ」


なぜこんなことに?10円玉を2枚積むおまじないなんてやってないのにな。


「あのー!すいません!まだ中に入ってます!すいませーん!!…………どうしよ」

「閉じ込められたか」


でも、誰が閉めたんだ?中も確認せず。それに、体育倉庫の鍵を持ってるのって先生だよな?でも、体育の先生は途中から居なくなったし………。


…………あの人か。


「どうしよ!けんちゃん!このままじゃ誰にも気付いて貰えないよ!」

「そうだな~。まあ、大丈夫だと思うけど」

「え?何が大丈夫なの!?大丈夫じゃないでしょ!」

「多分あの人だから」

「あの人?まさか五十嵐先生!?」

「そのまさかだろうな。考えてみろ。体育倉庫の鍵を持ってるのは先生だろ?体育の先生が居ない今、今日の授業を任せられたのはあの先生だ」

「確かに。あの人なら十分に考えられる。けど、これじゃただの監禁じゃん!」

「いや、多分故意はないんだと思う。さすがにあの人でもわざわざこんなことしないさ。きっとただの確認忘れさ」

「それ一番駄目なやつじゃん!」


と、言うことがあり、今に至る。



「今何時だろ?」

「結構長いこと入ってるぞ?」

「普通さ。クラスの二人が居なくなってたら探さない?」

「まあ、そうなるだろうな。普通はね」

「怖いこと言わないでよ…」

「まあ、なんとかなるだろ。この暑さだけはなんとかしてほしいけど」


なぜ俺がこんな余裕な顔をしていられるかと言えば、答えは単純だ。

たとえ、先生は来なくても玖乃さんや那岐さんが朱音を探しに来るだろうと思っていたのだ。


クラスも同じだし、体育の時間から居なくなったと考えれば、そのうち体育倉庫に閉じ込められてるという答えに辿り着くだろう。

特に那岐さんなら気付きそうだからな。


そう思い、俺はその場に座り込み、救助を待つことにした。



そして、数時間後。



「………」

「……………ねえ、けんちゃん?」

「うん?」

「けんちゃんが余裕な顔してたのって玖乃さんや那岐さん達が助けに来ると思ってたからじゃない?」

「え?まあ……そうだな。特に那岐さんなら見つけてくれそうだからな」

「でもさ………。この少し冷えてきた感じと閉じ込められてからの時間的にさ。明らかに今って……夜…だよね?」

「………やっぱり?」


なぜかは分からんが、助けは来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る