第20話 ポンコツな彼女

私は碧葉朱音。

今年から高校に入学したのだが、そこで幼馴染みの好きな人とまさかの再会を果たした。

といっても、家が隣で、たまに見かけることはあったから再会というのはちょっと違うかな?


とまあ…その後、いろんなこともあったけど、こんな感じで私とけんちゃんは次第に仲良くなっていったのでした!


ところがここでハプニング。

いいえ。またまたハプニング。


というか、私とけんちゃんの間にハプニングが多すぎない?


と、まあそんなことは置いといて、今回のハプニングはなかなかに大きいものだった。


なんと、私とけんちゃんは体育倉庫に閉じ込められたのだ。そして……。


「俺のこと好きなの?」

「…あ………」

「……………」


ついにけんちゃんが、私の気持ちに気付いてしまったのだ!ここで、私が正直に答えれば私達は一歩前進するかもしれない。けんちゃんも私のこと、嫌い……では無いと思うし、今までいろんなハプニングやトラブルもあったけど、結果的にそれを通して距離が近くなったし。


と、私は考えていた。


「………そりゃ………」

「……………」


そうだ。ここだ。ここで私の気持ちを。


「……好き………」

「……………」


そう。私の気持ちを素直に。


「な…」

「な?」


あ、あれれ?『な』?何を言ってるの???

私しっかり!


「なわけ……」

「なわけ?」


なわけ!?何を言う気なの!?私!

あぁ~!なんだか頭が真っ白に!それに、すごく……恥ずかしく……。


「好きなわけ………あるかぁああ!!!!」


あ…………。碧葉朱音さん……?

あなた何を言ってるの………?


「は、はぁ!!?じゃあ今の雰囲気なんだったんだよ!?」


やってしまった…………。


あぁああああ……!!!


現実はそう甘くはなかった……。



時が経ち、数時間後。

私とけんちゃんは軽い(?)口喧嘩をした後、夜遅くなったので眠ることにした。


私より先にけんちゃんは眠ってしまった。

そんなけんちゃんの寝顔を前にして、いっそこのままキスしてやろうかと変な考えがよぎったが、私も眠気がしてきたので大人しく眠ることにした。


せめて……。せめてけんちゃんの隣で…すぐ近くで…けんちゃんを感じながら眠りたい。

意識が朦朧もうろうとしながらそんなことが脳裏に浮かび、私はけんちゃんに寄りかかり肩に頭を置いて眠りについた。



翌朝。


「ん…うぅん……あれ?朝……かな?」


私は眠りから覚めたが、そこは体育倉庫の中であり、光はほとんど入ってこなかった。朝なのか判別できるものは扉の隙間から入る一筋の陽の光だけであった。


「やっと起きたか?」

「え?けんちゃん…?」

「おはよ」

「………おはよう……ございます」


横を向くと、すぐそこには私が好きな人が居た。あ、そうだ。そういえば私、昨日けんちゃんの肩を借りて……。


「あのー…朱音さん?早くどいてくれませんかね?肩が痛いんですけど」

「え?あ、ああ…………嫌……だ」

「へ?」

「へ?」


あれ?私いま何て言った?

嫌だ?

え?え??私、何を言ってるんだ?


「朱音?」


あ~……なんだかまだ頭がぼーっとする…。

まだ眠いのかな?なんか、すごく甘えたい気分に……。


「もう少しだけ……」

「え?ちょっと?朱音?朱音さん!?何でまた俺の肩を使って寝ようとしているのかな!?」

「もう少しだけ……」

「もう朝だぞ?寝ぼけてんのか?」

「だめ。まだこうしてたい……。けんちゃん……」


きっとけんちゃんの言う通りだ。寝ぼけているんだろう。普段なら謙ちゃんの前でこんな甘えたこと出来るわけない……。


「お前完全に寝ぼけてるな」

「ううん……。寝ぼけて……」

「るよな?」

「寝ぼけて……」

「るよね」

「寝ぼけて……ますね。はい」


さすがにここまで時間が経つと頭がはっきりして来たので、やっとなんとなく意識を保つことが出来た。


「お寝ぼけさん。起きたか?」

「はい。今はっきりと目が覚めました。そして私が今まで言ったことは忘れてください、とアカネはアカネは威圧的な目を使ってお願い申し上げます」

「お前はミサカ……じゃなかった。アカネ何万何号だよ」

「はい、どいたよ。これで満足?」

「はいはい。ありがとうございます。あと、さっきまでの記憶は消去したのでその威圧的な目は止めてくれ」

「よろしい」


ま、おふざけはここまでにしときましょうか。


「それで?これからどうするの?結局朝になっても状況変わってないんですけど」

「こっち側から何も出来ないんじゃしょうがないだろ?昨日とすることは変わらない。待つ」

「やっぱり」

「その何も考えてなかっただけでしょ~、みたいな目はやめろ。それに、よく考えてみろ。今日は学校だぞ?どこかのクラスは体育があるはずだ。しかも今は体育祭の練習をしている頃だ。それなら、体育倉庫を開けるに決まってるだろ?」

「うーん……」


まあ確かに……けんちゃんが言ってることは何も間違ってないし、それなら今日中には助かるだろうけど……。

でも、授業中に助けられたら……。


『きゃっ!人!?何でこんなとこに人が!?びっくりした~!あれ?あなた碧葉朱音さん?それに、あなたは……。どうして二人は体育倉庫の中に?』

『もしかして……あの二人、あの中で何かしてたのかな……?』

『いやいや、あの碧葉さんに限ってそんなこと無いでしょ。あの碧葉さんだよ?』

『でも、男子二人で居たんだよ?しかも体育倉庫って……』

『………碧葉さんって……そんな人だったんだね』



「あ………」

「ん?どうした朱…」

「うわぁああ!!!そんなことになったら!!学校生活終わりだぁああ!!!」

「ちょ!何だよ!いきなり!びっくりするだろ!?」

「いい!!?今からでも絶っっ対にここから出る方法を考えてここから出るわよ!?いい!?いいよね!!?」

「へ……?は、はい……?」


急いでここを出なければ!もし誰かに見つかったらなんて思われるか分かんない!いいや、絶対変な風に思われるはず!一刻も早くここから!


「ちょっと待て!出るたって出口なんかないだろ。今更慌ててどうしたんだよ。それに、出口があったとしたら、昨日のうちに出てるさ」

「それでも探すの!!」

「落ち着けって…」

「落ち着いてられないの!!このまま誰かに見つかったらどうなると思ってるの!?」

「え?助けて貰えるんじゃね?」

「そりゃそうだけど、私達はなんて思われる!?」

「え?あ~………『さては五十嵐先生の仕業ですね。可哀想に…』とか?」

「そんな理解の早い人いるわけないでしょ!」

「はいはい。分かった分かった。お前が言いたいのはつまり、俺と二人でここに居たことがバレたら変な噂が立つってことだろ?」

「そういうこと!!」

「でも、それはしょうがないだろ。見つけて貰ったときに誤解を解くしかない」

「それで済めばいいけどさ…。でも絶対噂は立つよ……」


もしそんな噂が立っちゃったら……どうなるんだろ。停学?いや、退学!?


「じゃあ体育倉庫が開いたらまずは隠れて、近くに誰も居なくなったときにこそっと出るとか?」

「そう!それだ!!けんちゃん天才!?」

「そこまで持ち上げられるような発想だったか?お前焦ったらポンコツになるのか?」

「ポンコツとか言わないでよ。一応成績はいいんだよ?少なくともけんちゃんよりかは」

「そりゃ分かってるよ。パーフェクトテスターさん」

「その二つ名みたいなのやめてくれない?一体誰が付けたの?それ。勝手に人の名前に二つ名なんか付けてさ」

「絶対なる頂点って言われてたな。略して『絶対頂点パーフェクトテスター』碧葉朱音。ってどうだ?」

「急にどこかの都市のレベル5みたいな呼び方になってるけど……。とりあえず、ここから出る件についてはそれで行きましょ」

「そうだな。それじゃ一旦隠れる場所を今のうちに探しとかないとな。てか、なんなら今が何時かも分からないからな。いつ体育の時間になってもおかしくないぞ」

「うん、そうだね!それじゃ…」


キーンコーンカーンコーン……。


「え?これチャイム?」

「ああ、そうだな。俺もこのチャイムがアラーム代わりになって起きたんだ」

「え?まさかとは思うけど今の授業の始まり……なんてことないよね?」

「え?あ~……可能性はあるかもな」

「え!?だったら早く隠れないと!どこかのクラスが体育だったら…」


ガチャ!


「はぇ?」

「ははは………。お前…ほんとにタイミング良いよなぁ………」


なんと、体育倉庫の鍵が突然開いてしまった。これは私達にとっては喜ばしいことだが、このままでは見つかってしまう!


早く、早く隠れなきゃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る