第7話 隣人関係

やってしまった。

そう。私は過ちを犯してしまった。


「それでは、お昼にしましょうか。この男も一緒なのはちょっと、いえ…かなり嫌だけれど」

「はっはっは。そんなに嫌ならなぜ隣に座ったのかな?もしかしてツンデレというやつかな?」

「うふふ。殺すわよ?」


那岐さんと片桐くんはいつものように言い争っていた。一方、その横では私とけんちゃんの気まずい空気が出来上がっていた。



なぜだ。なぜ朱音はわざわざ俺の隣に座った?普通ここは女子達の隣に座るものだろうに。


「それじゃ、いただきまーす!」


玖乃さんはそんな俺達を横目に弁当を食べ始めた。ここでボーッとしていても怪しまれるだけだ。俺も食べるか。


「いただきます」

「いただきます」


朱音と声が被ったようだ。それにしても朱音の行動は謎だ。



けんちゃんも同じことを考えていたようで、声が被ってしまった。ここで変に焦ったりしてると怪しまれるし、こうするしかないよね。


「ねね、二人はお隣さんなんでしょ?」

「え?あ~、まあ……ね?」

「二人は何回か会ったこととかあるんでしょ?いつからお隣だったの?昔の二人とか知りたいな~!特に朱音ちゃんの小さい頃の話とか聞きた~い!」


また…。玖乃さんは何でいつもけんちゃんに話題を振るの?まさか怪しまれてる!?


「いえ、引っ越したのは最近なのでそこまでは……」

「そっかぁ~」


ありがとうけんちゃん……助かった……。


「ん~………」

「何?玖乃さん。まだ何かあるの?」

「二人って本当にそれだけ?」

「は、はい?」


やっぱり疑われてる。というか、今考えてみれば、これ隠すことなのかな?玖乃さんと二人だけの時に幼馴染みだって話そうかな…。


「私にはどうにもお隣さんってだけには見えないんだけどなぁ~?」



この玖乃という人はなぜこうも鋭い。しかもやけに突っかかってくる。なかなかの曲者と知り合ったな朱音。


「いえ、ただの隣人ですよ。特に関わりはありません」


黙秘でもしたら逆に怪しまれる。ここは何でもいいから発言するのが吉だ。


「ふ~ん。まあいいけどね。もし気になったら独自に調べるし。それでさ、今度朱音ちゃんの家にお邪魔していい?」

「え?急に何で?」

「この前も話してたじゃん。佐久蘭ちゃんと家にお邪魔していいかって」

「確かに言ってたけど、何で今また?絶対何か探るつもりでしょ」


確かに何か探りにいきたいようだな。それより、あまり焦りすぎてボロ出すなよ朱音。


「何?もしかして何か隠してる?」

「いや、別にそういうわけじゃ…」

「じゃ、決まり!今度の休みにどう!?」

「え!?勝手に決めないでよ!それに、那岐さんだって急に言われたら…」

「私は構わないぞ」

「えぇ!?」


いつの間にか片桐と那岐さんの争いは幕を閉じ、片桐は隅でのされていた。


「と、いうことです朱音ちゃん!」

「は、はぁ…」


朱音も大変だな。同情するよ。


「んじゃ!俺は健のとこ行くとするか!」

「断る」

「早!なにもそんなに嫌がらなくていいだろ?」

「フッ。彼は断ると言ったのだ。お前は家へ上がるべき器ではないということだろう」


那岐さんから助け船を出してもらえるとは。今日は運が良いな。


「ま、そういうことだ。諦めてくれ」

「なんだよ。くそ~」

「どうせ貴様は浅久くんの家ではなく朱音の家に興味を持っただけではないのか?」

「ギク!」


おー、今すっげえ分かりやすい反応したなぁ。こんなあからさまな反応初めて見るよ。


「ちっ、まぁいい。今回は退いてやろう。次はないと思え!」


どこぞのチンピラだよ。絶対弱いやつだろ。


昼食を食べ終わり、しばらくすると昼休みが終わった。それからしばらく時間が経ち、放課後。


「何でついてくる」

「まあまあ、いいじゃないか。家まで送るくらい。友達として当然のことじゃないか」

「明日那岐さんに言ってもいいんだぞ。碧葉さんの家をこいつが特定しました、と。さて、どうなるかな」

「お前は悪魔か!」

「なら諦めろ。さっさと自分の家へ帰れ」

「冷たいな~」


こいつが絡むとろくなことにならない気がする。家に近づかせないが吉。


「………」

「いやぁ、それにしても今日はいろいろあったな~。本日の収穫は那岐さんの体操服姿。早く夏になんねぇかな~。次は水着姿だ!」

「………」

「それに、やっぱ碧葉さんも狙っていきたいな。見た感じはごく平均程度だろうが俺には分かる。あれはズバリ、脱いだら凄いタイプだ」

「………」

「なんだよ。だんまりしやがって~」

「それはこっちのセリフだ。ついてくるなと言ったはずだが?」

「別にいいじゃんか」

「はぁ」


こいつを説得するのは難しそうだ。もういい、諦めよう。


「おぉー、本当に碧葉さんちのすぐ横じゃねえか」


しつこいので仕方なく家まで同行させたが、やはりこいつの狙いは朱音の家か。やはり少し危険を感じるから那岐さんには話しとこうか。


「んじゃ、もういいだろ。帰れ」

「んだよ~、もうちょっとゆっくりさせてくれよ。愛想ねぇな~」


文句をブツブツ言いながら渋々片桐は帰っていった。


翌日、朝。


「那岐さん。ちょっと話が」

「ん?何かな?」

「いえ、ちょっと片桐のことで話が」


数分後。


「よっす、おはよー!健!」

「………南無」

「は?」

「片桐颯馬。少しいいか?いや、事情なんて知らん。こっちに来い」

「は!?ちょ、ちょっとまて!どゆこと!?おい!健!助けてくれ!おーい!」


その日からこの学校にはある噂が流れ始めた。朝、この学校の生物準備室から男の断末魔が聞こえるらしい。

それが何なのかは、知る人ぞ知る、だ。

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