第6話 屋上での一時
4時間目、体育。
「さて、では勝負といこうか」
「ああ、いいぜ。受けて立つ!そして負けました!ありがとうございました!」
最低だ。こいつ体操服姿を見せてもらったから律儀に礼までしてやがる。
「敗けを認めるのはいいが、軽すぎないか?それになぜ礼を言われる?まさかとは思うが、私の体操服姿をただ拝みたかっただけ、ではないだろうな」
狙いがバレバレじゃないか。
「そのまさかさ」
隠す気もなかったか……。この授業中に死人が出るかもしれんな。少なくとも重傷患者は出るだろう。
「なるほど。死ぬ覚悟は出来ているらしいな」
「覚悟なんて元から決まってるさ。男の夢に危険は付き物だからな!」
「フッ。その考えが痛い目を見ることになるぞ。本当に殺してしまっても文句は言うなよ?」
「当たり前だ!死ぬまで俺は男を貫く!」
なにこの少年漫画のラストバトルでお互いを認め合う的な展開は。
「佐久蘭ちゃん怒ってるね~。でも私にはあの二人、気が合ってるように見えるのよね」
「あーそれは同意見です。って、あなたいつからここに?」
「ずっと居たよ?気付かなかった?」
「はい」
この人は確か、朱音とよく一緒にいる……。
「………」
「玖乃です。玖乃奏芽」
「あ、そうそう。玖乃さん」
まだ名前が覚えられないな。早く覚えとかないと。
「おいお前達」
片桐達のいざこざに気づいたのか、一人の先生が二人の元へ。………あれ?あの先生、体育の先生じゃない…よな?
「あまり騒ぐな。お前らの担任は私なんだからあまり騒ぐと私の先生としての評価が下がるだろ。だから騒ぐな」
まさかの五十嵐先生。毎度のことながら教師らしからぬ発言ばかり。本当に大丈夫か?この人。
すると、もう一人の先生がグラウンドにやって来た。多分体育の先生だろう。
「あれ?五十嵐先生?どうかしましたか?」
「あ~、何でもないです。こいつらの担任として、いろいろあるんですよ。えー……と、なんとか先生。よろしく頼みます」
なんとか先生?まさかこの人教師の名前さえも覚えてないのか?いろんな意味でやばすぎるだろ……。
「ええ。分かりました。それと、自分の名前は
「あーそうでした。たたただたか先生」
「たが一個多いですよ先生」
「え?あーそうか。たただか先生」
「一個少ないです…」
「んあ?えーと、それじゃ……先生よろしくです」
この人……。すごいな。ある意味尊敬します。
「え、えーと。そういうわけでこのクラスの体育は私が担当します。多只高です」
先生達も大変だな。いろいろと。
「まずは二人一組になって準備運動をしてくれ」
「二人一組…か。どうせあいつが来そうだけど…」
「よし、やるか。健」
「やっぱりお前来るのな。……んで、大丈夫か?体ボロボロだけど」
「ははは。これは男である証、称号さ」
「あ、そう」
こいつにとって男の基準はどこなんだろうか。
準備運動を済ませると授業が始まる。新学期始まってすぐの体育は体力テストというのがお決まりだろう。この学校とて同じことだ。
「体力テストかー。健は体力に自信ある方か?」
「いや、そこまでの自信はないよ。普通くらい」
「見るからにそうだろうな」
「そういうお前はどうなんだ」
「さぁ~どうでしょうね~?」
そうやって自信ありげに濁す奴は運動神経抜群な奴だけと決まっている。
「んじゃ、50mで勝負してみっか?どっちが速いかっていう単純な勝負さ」
「負けが決まっている勝負に乗るほど俺はバカじゃない」
「やる前から勝負を捨てる奴の方がバカだと思うけど?」
「あーそうかい。なら俺はバカでいいですよ
「……お前意外と頑固だよな」
「は?」
「いや、別に。ま、勝負とまでは言わないけど、タイムくらい教えてな!」
片桐と話していると、すぐに体操が始まった。その後、体力テストが始まり、各々それぞれの種目の場所へ向かうことになった。
「んじゃ、先に50mいっとくか?」
「何からでもいいよ。どうせ全部やらなきゃいけないんだし」
「んじゃ、50mからな!」
「へいへい」
こうして俺は片桐に流されるまま体力テストを終え、昼休み。
「いや~。圧勝でしたな~。健くん」
「そうだな。良かったじゃないか勝てて」
俺のタイムは8秒45。片桐のタイムは7秒78と俺は当然の如く片桐に負けたのだった。
「それに、それ以外の競技も俺が全部勝ってたな」
「なんだよ。自慢か?」
「違うさ。俺はお前のことを言ってんだよ。お前、全く運動しないだろ。これぞ運動不足って感じの結果じゃないか」
俺の体力テストの各種目の結果は全て平均を下回わるものだったのだ。
「いや、俺にとってはこれが普通だ」
「つまり昔から運動不足と言うことだな」
「否定はしないさ。というか事実だし。俺は元々こんな感じなんだよ」
昔から読書やゲームばかりでスポーツとは全く縁がなかったのだ。運動不足になってもおかしくはない。
「ふ~ん。まあお前が良いなら良いけどよ。それにしても腹へった~」
「次は昼休みなんだからもう少し我慢しろ」
「あ!そうそう!この学校は屋上も開放してるんだぜ!屋上で飯食おうぜ!」
「え~、屋上暑い~」
「ガキか!それくらい我慢しろって、風当たりも良いし丁度良いかもしれないだろ?」
それにしても、今時屋上を開放している学校なんて珍しいな。大半の学校は屋上は立ち入り禁止だろう。
「まあ、行くだけ行くか」
昼休み、屋上。
「……意外と…」
「混んでるな…」
屋上が開放されている学校は珍しいということもあってだろうか。屋上は多くの生徒で賑わっていた。
「お前と同じ思考の持ち主が集まっているらしいな」
「ああ。らしいな。ま、座れない程度じゃないし予定通りここで食べてこうぜ」
「人ばかりで風当たりも悪いこんな暑いとこでか?」
「いつまで拗ねてんだよ。景色はそこそこ良いだろう?」
見渡す限り家やビル、建物ばかりの景色なんですがね。
「お、いつぞやの変態くんと浅久くんじゃないか」
後ろの階段の方から声が聞こえてくると、俺といつぞやの変態が呼ばれた。
「これはこれは、いつぞやのお嬢さん。それに玖乃さんと碧葉さんもご一緒で」
この3人は固定化しつつあるな。あるいは俺達を含めた5人が固定化してきたか。
「ところでお三方も屋上で食事ですかな?」
「そうしたいところだったが、お前が居るのならば考え直すとしようか。いや、その根源たる邪魔な物を排除するのが早いか」
「出来るものならやってみるがいいさ。今回はちょっとやそっとでは退かないからな」
そして痴話喧嘩がまた始まった。
「「はぁ」」
「あれ?あはは。お互い苦労するね。この二人の痴話喧嘩には」
「全くだ」
俺と玖乃さんは思考が似ているのか、同じことを考えていたようだ。
「でも、どうする?この混み具合じゃ私達か浅久くん達、どっちかしか場所とれないよ?」
「いや、その考え自体違う。俺達5人で飯食えばいい。そのくらいのスペースはあるだろ」
朱音と一緒に食事というのは少し気まずいが、この場を穏便に済ませるにはこれが一番良い選択だ。朱音の隣にさえ座らなければお互いに意識することもないだろう。
こうしてけんちゃんの考えにより、私はけんちゃんと食事をすることになった。まるでそれが当たり前かのように私はたいちゃんの隣へと座った。
………。あ、
私は悟った。自分がやってしまった過ちに。
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