第4話 友達との距離
チャイムが鳴り、一時間目の終了を告げた。
「よーし終わるぞ~。まだプリント書き終わってない人は今日中に出してくれ」
この先生はとことんマイペースな人のようだ。こんな性格でよく先生やれてるな。
「あーそうだ。浅久。ちょっと来い」
「え、自分ですか?」
「浅久はお前しかおらんだろ」
それはそうだが、なぜ俺が。
先生に呼び出され、先生と共に教室を後にした。
「あの、僕に何か?」
「いや特にお前に関する用事はないさ。ただ配布物があるからそれを取ってきてクラスに配ってほしいだけだ」
「つまり誰でも良かったってことじゃないですか」
「そんなことはないさ。お前は扱いやすそうだから呼んだんだ。これからも頼むな」
そんなこと教師が言っていいのか。遠回しに私のパシリになれって言ってるようなもんだ。
「それで、どうだ?クラスには慣れそうか?」
「まだ1日目なんで何とも……」
クラスというよりこの人に慣れるのに時間がかかりそうだ。
「そういえば碧葉とお前は同じ中学だったらしいな」
「ああ、はい。そうですね……」
「その感じだとあまり話したことはないって感じか………もしくは喧嘩でもしたか、かな」
この人は教師としては変人だろうがこういう所は鋭いらしい。
職員室に着くと、先生の机の上にはプリントが置いてあった。
「お察しの通り、配布物というのはこれだ。これ全部教室まで頼む」
「はい分かりました」
「それじゃ、これからもお前に頼むからそのつもりで」
これからも続くのか。この配布代行サービス。
「高校生の3年間はとても短い。2年の後半からは進路関係で忙しくなるからな。今からでも遅くない。青春しろよ。少年」
先生はそう言うとすぐに職員室から出ていってしまった。
………青春か。俺から最も遠い言葉かもしれない。俺の青春は小学生の時に終わってしまっているんだ。今更……。
どうしたんだろう。けんちゃんは五十嵐先生に呼ばれ、どこかへ行ってしまった。まだ1日目だし悪いことをしたわけじゃないだろうけど。
うーん。気になる……。
「あの、すいません。碧葉さん…ですよね?私、
「あ、はい。碧葉ですけど…」
声をかけてきたのは同じクラスの女子だった。でもどうしてだろ。少し恐れられてるというか声が震えてるというか……何か距離を感じる。
「えぇっと……私実は以前から碧葉さんのことを尊敬……憧れてまして!」
「……………。 え、憧れ?」
彼女の唐突な言葉を前に、私は全く理解できなかった。憧れって……どういうこと?
「あの、憧れって?」
「聞いたことがあったんです!
「は、はい?」
パーフェクト……テスター?
こんな単語を聞いたのは初めて。誰かと勘違いしてないかなこの人。
「あの、パーフェクトテスターって?そんなの聞いたこともないですし、きっと人違いかと」
「ううん。確かに君が
また全く知らない人が私のことを語っている。一方的に私のことを知られているというのもすごく変な感覚…。
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわ。私は
「は…はい。こちらこそよろしくお願いします。それでその…パーフェクトテスターって?」
「紛れもなく貴方のことよ。中学のテストを全て満点。勿論、この学校の受験さえも全教科満点。それが由来よ。その話が噂になって今じゃかなり有名な話よ」
まさかそのことがここまで有名な噂になってるなんて。
「やっぱり貴方だよね!碧葉さん!」
「まあ……確かにその話は私のことですけど…」
「わぁ!本物だ~!ずっと憧れてたんです!」
「は、はぁ……」
まさか自分が憧れの対象となる日が来るとは…。
すると、突然教室の扉が開いた。けんちゃんが帰ってきたようだ。先生から呼ばれた理由が気になっていたがプリントを持っているけんちゃんを見て、それはすぐに解決した。
「碧葉さん?」
「え?あー何でもないよ」
「彼が教室に入ってきた途端、視線がそっちに集中していたな。一目惚れでもしたか?」
「え!?いやいや!ち、違うから!」
「碧葉さんも恋とかするんだ。てっきり勉強ばかりだと思ってた~」
「いや、だから違う!」
まったく、このタイミングで帰ってこないでよけんちゃんのバカぁ。
ん……?一瞬誰かに悪口を言われたような……。気のせいか。
五十嵐先生からの雑用も終わり、俺は席についた。目の前の朱音の席には二人の女子が集まっていた。もう友達が出来たのか。さすが朱音。昔から人に好かれるタイプだったからな。
「よう!健」
「………」
「無視は酷くないか!?」
「あ、俺に話してたのか」
「健はお前しか居ないだろ?」
「そうだな」
さっきもどこかの教師に言われた同じことを言われたな。
「それで?何か用か?」
「おいおい、そんな冷たい反応しなくてもいいじゃないか。お互い、高校生活は始まったばかり。友達作りってやつは大事だろ?」
確かに一理あるな。新しい生活をする場ではまず周りとのコミュニケーションが大事という。
だが……。
「ならばまず自分の名前くらい名乗ったらどうだ?俺の名前を一方的に知っているなんてフェアじゃないぞ」
「あ、そうだったな。俺は
「ああ、すまん。あまり聞いてなかった」
仮に聞いてたとしてもそれで一人一人の名前を覚えられるものか。俺はあまりコミュニケーション能力は高くない。クラス全員の名前を覚えるのに最低3か月はかかる。
「ったく、人の話は聞いとくもんだぜ。それでよ。聞きたかったことがあるんだ。ここじゃあれだから少しこっちにこい」
「は?」
言われるがままに俺は窓側の方へとつれてこられた。
「あんたあの碧葉さんと同じ中学なんだろ?」
「ああ」
「やっぱりそうか。パーフェクトテスターの名前はやっぱ伊達じゃないのか?」
「は?パーフェクトテスター?何の話だ」
「全テスト全教科満点。受験も満点。まさに絶対なる頂点な碧葉さんのことだよ。この噂はかなり有名だぞ?」
そんな噂が流れてるのか。確かに中学の中でもその話は有名だった。いつも学年成績の1位は独占してたからな。周りの男子からは高嶺の花と呼ばれてたっけ。
「同じ中学のお前ならいろいろ知ってるんじゃないかと思ってな」
「なるほど。でも生憎、俺はあまり知らないよ。まず中学の頃、話したことすらないから。高嶺の花って感じだったし」
嘘はついてない。最後に朱音と話したのは小学生の頃だからな。それと、朱音と幼馴染みなんてのはあまり言わない方が良さそうだ。変に注目を浴びる必要もないだろう。
「そうか~。もっと詳しい話聞きたかったけど、仕方ねえな」
じゃあ、もしかして朱音の周りにいる二人もその噂のことで?高嶺の花というのも大変だな。
はぁ。なんだか気が滅入っちゃうな。この高校に来た理由の1つがそれなのに。
中学で私を知っている人は皆私を高嶺の花だとか言って私と対等に話してくれる人が居なかった。仲の良い友達は居たけど、それでも少し距離を感じてしまうのが嫌だった。
「ねえねえ!碧葉さんは何でこの学校に進学してきたの?やっぱりレベル高いから?」
「ううん。そこはあまり気にしてないかな。ただ家から近くて通うのに楽そうだからっていう単純な理由」
「え!?碧葉さんの家ここら辺なの!?はい!私行ってみたいです!」
「え?いや…突然言われても……」
そういえば私、友達を家に呼んだことも無かったな…。小学生の頃、けんちゃんと遊んだ時が最後だったかも。
「うむ。碧葉さんの家か。私も少し興味があるな。玖乃さんの誘いを受けるのならば私もついていっていいか?」
「お!やっぱ佐久蘭ちゃんも興味ある!?なら私と一緒に行ってみようよ!」
「ちょ、ちょっと待って!まだ私なにも言ってないよ?」
何でこの人達は勝手に話を進めるのかな…。この二人のペースについていけない……。
こうして時間は過ぎていき、気がつけば昼休みになっていた。
「朱音ちゃん!一緒にお昼にしようよ!」
「うん、いいよ」
「私も一緒にいいか?」
「いいよ!一緒に食べよー!いいよね、朱音ちゃん!」
「ええ、勿論」
休み時間に話していく内に段々私との距離も無くなってきた気がする。というより、元々この二人に距離なんてなかったのかも。私がそうだと決めつけて距離があると考えていただけなのかもしれない。うん、きっとそうだ。
………いつの間にかあの二人と仲良くなったようだな。最初はなんだか朱音が距離を取ってるように見えたが……もう大丈夫そうだ。
「何だ?また碧葉さんのこと見てんのか?やめとけやめとけ。高嶺の花に手を出すと、いろいろ後悔するぞ」
「あーそうですか。別に俺はそういうことで見てたわけじゃねえよ」
「ほー。碧葉さんを見てたことは否定しないのな」
仲良くなったというのなら俺も同じか。まあ俺の場合はこいつが一方的に話しかけてくるだけというか……。まあ悪い気はしないけど。
「う~……む。やっぱお前、何か隠してないか?」
「隠す?何を」
「俺の見解だとお前と碧葉さんは何か繋がりがある!お前はさっき話したことは無いと言っていたがそれは嘘だ!」
妙に鋭いな。見た目は子供、頭脳は大人だったりするのだろうか。
「何でそう思った」
「なんとなく!」
前言撤回。見た目も頭脳も子供……バカでした。
「別に何でもない。あったとしてもお前に言う義理は無いだろ」
「そのセリフは何かある奴が言うセリフだぞ。やっぱ何かあるようだな」
「………」
………気が向いた時にでも話してやんよ。
そんな時が来るかは知らんが。
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