第7話 君を離さない!?

「ということで、よろしく。」

 葉月は自宅にチキンを連れてきた。

「コケッ!」

 チキンもよろしくお願いしますと鳴いている。

「こちらこそ、よろしくね・・・・・・って、に、ニワトリ!?」

 葉月の母親はチキンを見て驚く。母親の名前は秋分。

「ね、いいでしょ? チキンを家で飼っても?」

 嘆願する葉月。

「ダメです! うちはマンションだからペットを飼うことはできません!」

「お願いよ! お母さん!」

「早く捨ててきなさい!」

 断固拒絶する母親。

「これからは勉強もがんばるから!」

「ダメです!」

「スマホ代や冷房代も抑えるから!」

「本当? 家計が安くなる! ・・・・・・ダメです! うちにニワトリを飼う余裕はありません!」

 一瞬しか母親をじんわりさせることができなかった。

「お母さんのケチッ。」

 ここに娘と母親の和平条約の交渉は決裂した。

「チキン! 私の部屋に立てこもるわよ! こうなったら籠城戦よ!」

「コケッ!?」

 葉月は冷蔵庫から食料と水を持ち出し、チキンを連れて自分の部屋に籠城した。

「おまえは子供か? それでも16歳の女子高生か? はあ・・・・・・。」

 葉月の母親は情けない娘に呆れるのであった。

「チキン! 何があっても、あなただけは守ってみせるからね!」

「コケッ。」

 葉月の言葉にじんわりするチキン。やっと新たに干支守になった葉月にも、干支守としての自覚が芽生えたか、と感動する。

「もしも籠城が長期化して食料が無くなったら、おまえを食べてやる! イッヒッヒー!」

 葉月に取ってチキンは非常食でしかなかった。

「コケッ!?」

 見直して損をしたと思ったチキンであった。

「なに!? 葉月が籠城!?」

 葉月の父親、白露が仕事から帰ってきた。

「そうですよ! ニワトリなんかを飼いたいなんて言うんですよ! しっかり怒ってください!」

 激怒している葉月の母親。

「やるな! 葉月! さすがは私の娘だ!」

「この親バカ!」

 感心する父親にも呆れる母親であった。

「葉月! 諦めてドアを開けなさい!」

「お父さんだ!?」

「コケッ!?」

 父親が葉月の籠城する部屋の前にやって来た。

「お父さん! チキンをうちで飼ってもいいでしょ?」

「いいよ。」

 あっさりとOKする父親。

「やったー! お父さん! 最高! 良かったね! チキン!」

「コケ!」

 飼ってもいいことになったので、ほっこりと喜ぶ葉月とチキン。

「さあ、葉月。ドアを開けなさい。一緒にニワトリを油に入れて、フライドチキンを食べようじゃないか。」

「やったー! フライドチキン!」

「コケッー!」

 フライドチキンを喜ぶ葉月とチキン。

「・・・・・・え!?」

「コケッ!?」

 違和感に気づく一人と一匹。

「チキンはパーティー用じゃない!」

「コケ!」

 激怒する葉月とチキン。

「え? 食用のニワトリを買ってきて、家族みんなで食べるんだろ?」

「違うわい!」

「コケ!」

 父親は勘違いしていたようだ。

「ダメだ。出てこない。」

「明日になったら出てきますよ。食料も無くなるでしょうからね。」

「そうだね。思春期の難しい年ごろだし、放って置こう。」

 こうして葉月の両親は説得を諦めた。

「チキン、誰にもあなたを食べさせないからね。」

「コケ。」

 葉月はチキンを守っている。

「だって、チキンを食べていいのは私だけだから!」

「コケッ!?」

 かに見えたが、ただの備蓄用の食料にしか葉月には見えていなかった。

「チキン、温かい。」

「コケ。」

 眠たくなったので葉月とチキンは寝ることにした。チキンは羽毛で柔らかく温かかったので、ほっこりする葉月。チキンも葉月に抱きしめられてほっこりする。

「チキン、離さないからね。」

「コケッ!?」

 体を強く締め付けられて苦しむチキンであった。

「zzz。」

「zzz。」

 その夜は籠城したまま葉月とチキンは仲良く同じ布団で寝た。

「コケコッコー!」

 そして、朝が来た。ニワトリの習性で朝が来たら大声で泣き叫ぶのであった。

 つづく。

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