第二話 《魔獣討伐:Beast hunting》(後編)

 署名後、とりあえず俺たちは討伐場所となる首都・トーキョウ北西部に向かう途中の馬車の中で、今回の討伐に関する方針を固めることにした。

 それをするに当たり、まずはお互いの能力値ステータスを確認し合う。(有名おれのステータスは第一話「《戦闘方式:Battle system》」を参照)


 名前  :カレン(19歳・165cm・女性)

 レベル :Lv.20(下級)

 生命総量:57

 体力総量:54

 物理攻撃:63

 魔法攻撃:42

 物理防御:60

 魔法防御:42

 俊敏性 :18

 器用度 :95


 名前  :ローラ(19歳・167cm・女性)

 レベル :Lv.21(下級)

 生命総量:63

 体力総量:69

 物理攻撃:63

 魔法攻撃:39

 物理防御:69

 魔法防御:39

 俊敏性 :17

 器用度 :105


 名前  :エリー(18歳・162cm・女性)

 レベル :Lv.19(初級)

 生命総量:57

 体力総量:57

 物理攻撃:57

 魔法攻撃:38

 物理防御:57

 魔法防御:38

 俊敏性 :19

 器用度 :95


 こうして改めてみると、ケンたちは若いのにかなりレベルが上がっていた。年齢=レベルと言われるくらいだし、これくらいが普通なのだろう。


「今回の目標は、討伐ではなく戦闘に慣れること。討伐はあくまでおまけ程度に考えているんだけど、アリーナ君はそれで問題ないかな?」

「ええ、問題ないです。むしろそれくらいラフな感じで居てくれて、ちょっと安心しています」


 リーダーであるカレンの方針に、俺は素直に従う。現状、師匠の残した資産で食うのには困ってないしね。


「こうして見てみると、本当にアリーナくんは能力値が低いね。今までどうやって一人で戦ってきたのか不思議なくらい……」

「エリー、失礼でしょ! ごめんね、エリーちょっと天然なところあるから」

「い、いえ、問題ないです」

 ローラは再度謝罪すると、エリーに「ほら、エリーも謝って」と促すので、俺は再度「本当に問題ないです」と二人に伝える。


「……でも、エリーの言うことは正しいよ。これじゃあ、とてもじゃないけどまともに戦えない。アリーナ君は《代理詠唱魔法》を使うって言ってたけど、他にはどんな魔法が使えるの?」

「基本は《斬撃魔法》だけですね。魔法知識自体はあるので、《強化魔法》だとか《回復魔法》なんかで、みなさんのアシストは出来ると思います」

「《回復》かあ……。それならうちにはエリーがいるからな」


 エリーが? と思いそちらを見ると、「あ、そういえば役職言ってなかったね」とエリーが暢気に言う。


「わたしの役職は後方支援なんだ。だから攻撃系の魔法は使えないんだけど……あっ! じゃあさあ、アリーナくんはわたしの助っ人ってことにすれば?」

「なに言ってんの、エリー。後方支援の支援はいらないでしょ」

「いや、エリーの言う通りだよ」

「どういうこと? カレン」


 状況が呑み込めないらしいローラに、俺が説明する。

「俺の……」

「アリーナ君の……あ、ごめんね」

「い、いえ……」

「アリーナ君からどうぞ」

「い、いえ……問題ないです」

「何が問題ないのよ」「ふふふ」カレンと俺の譲り合いに、ローラとエリーが笑う。


「じゃ、じゃあ、俺から説明しますね」

「よろしくね、アリーナ君」カレンが優しく俺に微笑んだ。


「……えっと、つまりですね。俺の《代理詠唱魔法》で、エリーさんの体力を使って、俺がエリーさんに代わって、エリーさんの力で魔撃法を発動するという……」

「わたしの体力を使って、わたしに代わって、わたしが魔法を?」

「ちょっとややこしいな」


 あれ? エリーさんはわかってたんじゃないの?

 未だ理解が及ばないらしい二人に、聡明なカレンが、

「要するに、アリーナ君の得意魔法は《代理詠唱魔法》なんでしょ。だからその代理対象をエリーに据えることで、アリーナ君には戦いに参加してもらおうってわけ」

 とわかりやすく説明する。


「なるほど~」

「あれ、エリーはわかってたんじゃないの?」

 ローラのツッコミに俺も首を縦に振る。


「これで役割は決定ね。

 私が前に出て、それをローラが後ろから援護。その後ろからエリーとアリーナ君が支援して、隙を見て、アリーナ君も積極的に戦闘に参加する。

 個人的には、よかったら《強化魔法》って言うのも使ってみて欲しいんだけど、そこまでは厳しいかな?」

「いえ、問題ないです」


 つまり俺の仕事はみんなのフォローだ。一度に複数対象への《代理詠唱》は行ったことがないが、きっと大丈夫だろう。


「お、頼もしい~。さすが男の子!」

 そう言ってローラが俺の肩に腕を回すので、俺は緊張して身動きが取れなくなってしまう。


「うわ、ガッチガチじゃん。なにキンチョーしてんの? かわいい~」

「止めなよローラ! アリーナくんが困ってるじゃん!」

「そーなのアリーナ?」

「い、いえ、問題ないです」


 俺は焦って、気持ちとは正反対の言葉を言ってしまう。


「ほら、アリーナ嫌がってないってよ」

「ええー! アリーナくんの破廉恥!」

 そう言ってエリーは、俺の頬を恥ずかしそうに叩いた。なんで俺が怒られてんの??




「ほら、二人ともなに遊んでんの? もう着くよ」


 そんなこんなで1時間。俺たちはトーキョウ北西部へとやって来た。ここが今回の討伐エリア。あと10分ほどで、ここに魔狼の群れが到着するらしい。


「怪我をした場合には、すぐに言ってください! 地元病院へ送り届けます」

《拡声魔法》によるアナウンスが聞こえてくる。


「そろそろだ」

 隣でそう呟くローラを見て、俺は辺りを見回した。どうやらみな一様に緊張しているらしい。


 思えば、みな「討伐より戦闘経験」という人間の方が多かったように思える。一組目の真面目そうなパーティー然り、あのヤクザのところもそうだ。うちだってさっきカレンがそう言っていた。それを踏まえると、この日雇いという非正規な仕事に対する人員の導入率も頷ける。

 ちょっとだけ可笑しいなと感じていたのだ。たかだか下級魔獣相手に、みなビビり過ぎだと。……いや、初級の俺が言えた義理じゃないが、しかしケンたちは中級者向けの森熊相手に、臆することなく挑んでいた。少なくとも、俺を守る余裕さえ持ち合わせていた。

 それに、日雇いの仕事にしては人員が多過ぎである。ここまで俺たちを連れてきた馬車群といい、雇い主であるおっさんとその部下。それに救護班と、簡単な医療施設まで整っている。討伐対象が下級魔獣であることを考えると、主催者側はどう考えたって赤字である。


 詰まる所、これは初級・下級冒険者たちを育成するための討伐会なのだ。きっと国の支援政策か何かなのだろう。異世界における冒険者は立派な戦力だ。投資するに越したことはない。


 少しして、遠くの方から笛の音が聞こえてきた。先遣隊からの合図である。多分あと数秒の間に、魔狼の群れの先頭集団と対面できるだろう。


「よし、皆気張っていくよ!」

 柄にもなく、カレンはそんな気合の入ったことを言う。長剣を構える姿も相まって、今のカレンは美しいというより、カッコいい。


「OK」「大丈夫だよ」ローラとエリーも返事をする。

「アリーナ君は?」


 いよいよ魔狼の群れが見えてきた。カレンはこちらを向かずに俺の調子を訊いて来る。安心しろ。俺が言う言葉はただ一つ。


「ええ、問題ないです」


 戦闘が開始した。

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