第1回 魔王軍幹部・七賢者会(会議前編)

「最初の議題だが、いつものように『転生者と超常能力者の関係性』について話し合いたい」


 タレスが配布した資料には、これまでに分かっている『転生者と超常能力者の関係性』に関する調査結果が記されていた。


「転生者……?」

 誰に聞かせるつもりはなかったが、そのペリアンドロスの呟きにタレスが答える。


「この世界には、度々同じ顔で同じ声、同じ能力値に同じ名など、過去の人間と全く同じ特徴を持った人間が現れることがあった。

 予てよりそれを疑問視していた我々は、独自の調査と研究により、普通の人間とは全く異なる種族の人間であることがわかった。

 そこで我々は彼らを人間とは別の存在として、彼らを“転生者”と名付けた」


「……なるほど」


「今現段階で転生者と認定されている人物は4人な」

 クレオブロスが話を付け加える。


「ああ。そしてその内、超常能力者であると判明しているのが、先日、魔王に直接討伐申請をしたシンラ・セキカズ。

 それともう一人、ペリアンドロスの前任の七賢者・第七席であったミュソンを殺害した、現在最も魔王軍の脅威であるとされるアキツシマ・ユイガ。

 その2人だ」


「……。確かにシンラは、魔王が彼を《万象網羅Collection》と呼んでいたことから、彼が超常能力者であることは間違いないみたいですが、その……アキツシマという者は、本当に超常能力者なのですか? 

 噂というか、その者に関しては話を聞いたことが無くて……」

 ペリアンドロスは疑問を呈する。


「……そうだな」

「現状、ミュソンを倒した人物が、アキツシマ・ユイガならば、確実に彼が“超常能力者”であることは、過去の伝承から明らかになっている」

 答えあぐねているタレスに代わり、キロンが説明する。


「彼らが“転生者”であると判明しているのにも、それと同じ訳がある。

 超常能力者は、そもそもどんな存在であるかは知っているか?」


「はい。魔王の過去の発言から分かる通り、彼らは魔王に匹敵する力がある者」


「そうだ。魔王は仰った。

『僕と同じ超常能力者は、僕を含めてこの世に7人。みんなそれぞれ別々の超常能力を有していて、“魔王”たる僕と対等の力を持つ彼らは、言わば“勇者”』

 この発言から分かる通り、超常能力者はみな強力な人物だ。そして彼らは、決まって過去に英雄視され、それが伝説となって語り継がれている」


「……!」

 ペリアンドロスは気が付いた。そういえばシンラも大賢人として噂になっていたし、現存する唯一のLv.90到達者として有名になっていた。


「特にシンラとアキツシマは、いろんな場所と時間においてその存在が伝説となっている。

 それは大体100年から200年周期で、その度に魔王軍の脅威となっている」


「例えば吾輩は、既に1000年以上この地位にいるが、その間、七賢者が吾輩とソロンだけになった原因も、そのシンラとアキツシマが魔王軍を片っ端から攻撃していたことにあった。

 それほどに超常能力者は強い。シンラの殺害を直接魔王様にお願いしたのも、我々では太刀打ちできない可能性があるからだ」


「なるほど……」


「裏を返せば、他の転生者二人が超常能力者と判明していないのは、そういった伝承や伝説が無いことにある」

 キロンは説明を終える。


「……え? では逆に、なぜその2人は転生者であるとわかっているのですか?」

 ペリアンドロスは素朴な疑問をぶつけた。


 すると、タレスとキロンは互いの顔を見合わせて、小さくため息を吐いた。その様子を俯瞰していたクレオブロスがふっと笑う。


「単純だよ。調べたんだ、この世界の全人間を」


「え?」

 ペリアンドロスは驚く。


「笑えるだろ? 先輩方はシンラとアキツシマの正体が段々とわかってきた頃に、じゃあ他の転生者、もとい超常能力者は誰なんだって疑問を持つようになったんだ。超常能力者が、魔王を除いて6人いることは確定しているからな。


 でも主だって伝説となっている人間は、シンラとアキツシマの二人しかいない。勿論他にも伝説となった魔法使いや冒険者がいるにはいるが、皆シンラとアキツシマと違って、両親や親族の存在が確認されている。そしてみな一度として再出現したことがない。


 明らかにシンラとアキツシマの存在はなんだよ。その生死も強さも。一般の人間とは一線を画している。まさに魔王みたいにな」


 クレオブロスは続ける。


「先輩方は100年に一度の周期で、毎回10年以上の歳月を掛けて全人間の名前と容姿を記録して回ってるんだ。それでわかったのが残りの二人。

 けれど彼女たちは、現在もまだその存在が“超常能力者”だとは判明していない。


 そもそも、魔王はおれたちに何も教えてくれないんだ。多分、魔王は全超常能力の詳細と、全転生者の存在を把握している。けれど己たちはそれを知らない。ここまで解明してきても、未だに超常能力と転生者の関係性すら明らかにできていない」


「クレオブロス!」

 キロンが怒鳴る。


「己は十中八九、転生者=超常能力者だと思うけどな」

「クレオブロス! また貴様は……、魔王様に不信感を抱くでない!」

「抱くだろ? あいつは何も教えてくれない。

 きっと己たちの努力を見ながら嘲り笑ってるんだよ」

「貴様……!」

「なんだ、やるか? おれは前からあんたのことが気に食わなかったんだ」

「おい、止めんか二人とも!」

 キロンとクレオブロスが戦闘を始めようとした頃、タレスが横から二人を仲裁する。


「吾輩は、クレオブロスとは違い、超常能力者と転生者の関係はまだわからないものと考えている。なんせ判明している転生者と超常能力者の人数が合わないからな。

 貴君はどう思う、ペリアンドロスよ。転生者と超常能力者の関係性。その二つに何か意味はあると思うか?」


「ふむ……」ペリアンドロスは考える。転生者と超常能力者の関係性。

 ……と、そこでペリアンドロスの頭には別の考えが浮かんだ。


「確かに、我にはクレオブロスの言うよう、転生者=超常能力者であるとも考えられるし、むしろタレスの言うよう、それら二つの関係性はまだ明らかではないとも思います。

 けれど我は、そんなことよりも『超常能力者と“勇者”の関係性』について問いたい。勇者とは、一体何なのですか?」


「……勇者だと?」

 タレスは訊き返す。


「ええ。勇者は、超常能力者のことなのですか?」

 ペリアンドロスはそのことが前から気になっていた。




 ペリアンドロスは、元はマクハリという名の領地の主たるバク・マクハリの息子、クラマ・マクハリである。その際、彼は領主の息子として領主である父の仕事の手伝いをしていたのだが、その仕事の一つに、『町の中から勇者を一人選定すること』があった。

 別に義務ではないのだが、もしその勇者が功績を上げた場合には、その勇者の出身地たる町の領主は、国から寄付金を受け取れるのだ。だから伝統的に、町内に勇者に相応しい能力をもった者がいた時には、その者を“町の勇者”として首都に送り出すのだが……、


 魔王の発言、『“魔王”たる僕と対等の力を持つ彼らは、言わば“勇者”』を考慮すると、どうにも勇者というのは超常能力者のことではないのか、と考えられる。

 つまり伝統として語り継がれてきた『勇者の選定』もとい『”勇者”に対するペリアンドロスの見方』というのは、長い歴史の中で歪曲されて伝えられてしまった間違いなのでは? という疑問が浮かんだのだ。




 そのことを説明すると、タレスはどう伝えたものか、と迷ったような顔をした。その様子にキロンは俯き、クレオブロスは素知らぬ顔をしてそっぽを向く。ビアスは元より興味ないといった様子で、ピッタコスは我関せず。唯一、ソロンだけはその冷めた目つきを一つも変化させずに、ただそこに座っていた。


 ペリアンドロスがもう一度同じ質問を繰り返そうとした頃、ようやく重い腰を上げたように、タレスはこう言った。


「では、次の議題に移ろう。話は『勇者狩り』について。きっと貴君の求める答えもここにある」

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