第一話 《戦闘方式:Battle system》

 現状Lv.15の俺は、攻撃手段の少なさに困り果てていた。

 それは単に、魔法に関する知識が足らないからではない。能力値が低すぎるのが原因なのだ。

 次に現在のステータスを書き記す。


 名前  :有名アリナ(―歳・156cm・男性)

 レベル :Lv.15

 生命総量:15

 体力総量:15

 物理攻撃:15

 魔法攻撃:15

 物理防御:15

 魔法防御:15

 俊敏性 :15

 器用度 :15




 ――冒険者として旅を始めた初日(こっちに来たのは昨日だから、実際には二日目)、神歴2020年10月1日の今日、さっそく俺は、街の外へとやってきてレベル上げを行っていた。

 ……けれど、どうにも俺はレベル上げというものを舐めていたらしい。

 今までの俺のレベル上げは俺ひとりによるものではなかった。リンやシュンたちとレベル上げをやっていた頃は、彼らが俺の代わりに魔物を盗伐し、ジジイ――師匠とレベル上げをしている時は、師匠が俺の代わりに魔物を狩ってくれていた。

 …………。

 詰まる所、俺はまともに魔物を倒したことが無かったのだ。

 俺は師匠の残した教科書を頼りに、魔物の撃破を試みる。




 この世界における戦闘、もとい討伐行為は、次の計算式によって定められている。


 損傷値ダメージ=威力値×攻撃側攻撃値/防御側防御値×乱数×補正値


 これは一般的な式なのですべてに共通されるわけではないが、少なくとも俺の使用する《斬撃魔法》はこの計算式を用いている(らしい)。【参考:戦闘の基礎(著者・森羅積和)】


 ここでいう損傷値ダメージとは、実質的に相手の生命総量を減らすことができる数値のことだ。計算式(戦闘方程式)を見てもらえばわかる通り、威力値、もしくは攻撃値が上がるほど損傷値も上がり、しかし逆に、相手の防御値が高ければ高いほど、こちら側の損傷値は下がってしまうことが分かる。

 それっぽく言うのであれば、威力値を定数とした場合(実際、ほとんどの魔法は定数)、損傷値ダメージと攻撃値は比例の関係性があり、また逆に損傷値ダメージと防御値は反比例の関係性があると言える。


 では次に攻撃値について。……って言っても、多分大概の人は説明するまでもないと思う。見ての通り、攻撃側――つまり俺の物理攻撃、もしくは魔法攻撃が参照される。

 物理攻撃とは、五種類存在する技法スキルのうちの三種類、斬撃法・射撃法・打撃法の攻撃を使用した際に参照される値だ。“物理”というだけあって、基本的には現世での物理法則に則った挙動を見せる。

 魔法攻撃とは、そのまんま魔法(魔撃法)を使用した際に参照される値だ。

 ……と、ここで話は逸れるが、実は魔法には二種類の技法スキルが内包された用語であることを追記しておきたい。


 魔術法と魔撃法。前者は《射出魔法》や《強化魔法》、後は俺の十八番おはこ《代理詠唱魔法》なんかが該当される、言わばアシストスキルのことだ。それ単体ではなんの効力も発揮せず、何かモノや別の魔法と組み合わせて使用する。(たしか《射出魔法》の説明でも同じことを書いた気がする。)

 そして後者は《斬撃魔法》や《射撃魔法》、あと強力なところで言えば《空力魔法(仮)》や《必殺魔法》なんかが分かりやすいだろう。攻撃手段として用いられる魔法だ。攻撃時には技法内で唯一、魔法攻撃の値が参照される。実は人間という種族においては苦手視されている技法だそうだ。【参考:生物学(著者・森羅積和)】


 次は防御値……これはいいか。相手が物理攻撃をした際には物理防御の値が参照され、相手が魔法攻撃をした際には魔法防御の値が参照されます。よし次。


 乱数。

 これは攻撃をした際にat randomアットランダムに決定される値らしい。乱数は0.85から1.00の間で15段階に変化し、その確率は同様に確からしい。


 最後は補正値について。

 補正値とは、つまりはその他もろもろ、攻撃毎に変化する様々な変数を総称したものだ。……なんて言うと大雑把すぎるで、わかりやすいところを述べておくと、クリティカルダメージのことだ。

 ……実際のところ、クリティカルダメージとは書かれていなかったのだが、補正値の説明には、俊敏性や器用度の値によって、通常の攻撃が1.01倍から1.50倍まで変化することが書かれていた。

 俺はこれを勝手に「あっ! クリティカルダメージのことか!」と納得したのだが、果たしてそれが正しいのかどうかはわからない。


 以上が戦闘方程式――戦闘に関する大まかな説明である。

 ここからは、実際に魔虫(魔飛蝗まバッタ)と戦うことで説明しよう。




 まず考えていきたいのが、相手(魔飛蝗)の攻撃力がどれくらいあるかだ。これは相手の種族値から大方予想することができる。

 森羅著、『生物辞典』の『魔飛蝗』のページを見てほしい。辞典によると、魔飛蝗の種族値は、


 生命総量:50

 体力総量:200

 物理攻撃:100

 魔法攻撃:120

 物理防御:75

 魔法防御:75

 俊敏性 :300

 器用度 :25


 であることが分かる。しかしこれはあくまで、その魔飛蝗がLv.100である時の数値。これを実際のレベルに換算する必要がある。


 では、その魔飛蝗のレベルはどうやって見極めるのか。これもその魔飛蝗の体長や、寿命などから予想することができる。

 ではもう一度、森羅著、『生物辞典』の『魔飛蝗』のページを見てほしい。辞典によると、魔飛蝗の寿命は1年から最長で3年。ほとんどの魔飛蝗は冬を越すことができず、稀に《恒温魔法》を発動してしまった魔飛蝗だけが、1年以上の命を得るという。


 1年という期間はとても短い。人間でもレベルを15まで上げるのに15年近く掛かるのだ。いくら魔虫の方が早熟だとしても、レベルは10に乗れればいい方である。ちなみに辞典によると、魔飛蝗の平均レベルはLv.5であるらしい。(推測する必要すらなかった。辞典を見ればすべて解決だ。)

 レベルが分かれば、後は計算するだけである。なあに難しいことはない。100で割って5を掛けるだけである。


 名前  :魔飛蝗

 レベル :Lv.5

 生命総量:2

 体力総量:10

 物理攻撃:5

 魔法攻撃:6

 物理防御:3

 魔法防御:3

 俊敏性 :15

 器用度 :1


 よって魔飛蝗の攻撃力は、物理攻撃が5、魔法攻撃が6であることが分かった。

 これくらいの攻撃力ならば、まず俺一人でも死ぬことはないだろう(と思う)。よって次のステップ、戦闘を行っていこうと思う。


 まずは俺の先制攻撃。

 使用する魔法は《斬撃魔法》。威力値は消費体力量によって比例の関係性をもって変化するという特殊技で、また必要器用度が5と極端に低いのが特徴だ。(本当は技発動における必要器用度の話や、威力値と消費体力量の関係性についての話もしたいのだが、長くなるのでまた今度にしよう。)


 攻撃技法が魔法(魔撃法)なので、参照される攻撃値は魔法攻撃。……ここで補足だが、この《斬撃魔法》、《斬撃》と名付けられているのでつい斬撃法――物理攻撃だと思われがちだが、実際は斬撃法を模した魔撃法であるという裏話があるので注意が必要である。もっとも、俺の場合、物理だろうと魔法だろうと攻撃力は変わらないので関係ないがな。


 ……話を戻そう。

 俺はこれから《斬撃魔法》繰り出すので、ここで皆さん予習済み、戦闘方程式がやってきます。代入してみるとこんな感じ、


 損傷値ダメージ=10×15/3×乱数×補正値

    =50×乱数×補正値


 ……もう乱数と補正値の計算はしなくていっかな。

 こうして計算してみると、見ての通り、俺は魔飛蝗に対して50のダメージを与えられる、つまり魔飛蝗の生命総量を50減らすことができることが分かる。

 実際には乱数により43から50までダメージが変化し、補正値によってさらに43から55まで変化するのだが、どっちにしろ、俺は魔飛蝗を一撃で倒せることがわかる。


 ……ふっー。いや~よかった。ちゃんと計算しておいて。ちゃんと計算しておかないと、俺は魔飛蝗相手に死ぬ可能性だってあるのだから。


 俺は早速、魔法詠唱を開始する。

「《斬撃魔法・Slash》!」

 すると突然、魔飛蝗は空高くへと飛んでいく。

「ぴょーっん」

 俺の攻撃は微かに地面をかすっただけだった――。


 俺の残り体力総量:5。

「くっそおー!」

 俺は失念していた。

 この世界に、命中率の概念がないことを。

 それもそうだ。ここはゲームの世界ではないのだから。命中精度は、個々人の技量によって左右される。

 こんなことなら、もう少し出力(威力)を下げておくべきだった。ダメージ量は、魔飛蝗の生命総量を大きく上回っていたのだから。

 なぜあそこまで計算し尽くしておいて、最後の最後で面倒くさがる!

 後悔が後悔を呼び、そして無限の後悔に苛まれる。




 もう、今日はこれ以上戦えそうにない。

 なんせ体力が0になったら、身体が動かなくなってしまうからだ。もし動けなくなったら、それは一巻の終わりだ。魔飛蝗ごときに殺されて終わりだ。


 俺は諦め、今日は街に帰ることにする。

 この調子で大丈夫だろうか……なんて能天気なことは考えられなかった。

 これは本当にまずいかもしれない……。

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