第二章 チート持ちは俺じゃない。

LONELY編

第〇話 《序章語り:Prologue》

 これまでのあらすじ。


 俺こと有名アリナは、初期ステータスが低すぎる故なのか、転生しては死に、死んでは転生を繰り返すという、人呼んで“無限転生”に囚われていた。

 終わらないその旅路に終止符を打ったのが、ジジイこと、マクハリという名の小さな町の教会の神父。のちに森羅しんら積和せきかずという俺と同じ転生者で、俺とは違うチート持ちであることが判明するのだが……。とにかく、俺はその神父に命を拾われ、名前まで授けてもらった。つまりジジイはアリナの名付け親。


 いくらかレベルが上がり、ようやく教会の外でも生活ができるようになった頃、俺はある少女と出会う。彼女の名前は御月オツキ。マクハリの町の唯一の少女で、両親は町で喫茶店を営んでいた。

 御月は俺以外に同い年の友達が居なかったからか、それともジジイにそうするよう言われたからか。本意はわからないが、出会ったその日から、俺たちは毎日のように町散策という名のデートをした。あの日々は楽しかった……。他にもジジイと三人でピクニックに行ったり、仕舞には二人で教会の切り盛り? をしたりした。


 そうして異世界転生スローライフを送っていたところに、町の外から4人の旅人がやって来た。彼らは冒険者で、どうも休息と帰省を兼ねてやって来たそう。その冒険者の内の一人、シュンはなんと御月の幼馴染だった!? これは困った! 当時はそう思った。けれど当の本人たちはそんな関係性じゃないらしく、むしろ『手伝ってやろうか?』なんて言われて。拍子抜けしたのを覚えている。


 彼らと出会ってからの日々はあっという間だった。毎日のように森へ出かけて、彼らは俺に魔法の使い方を伝授してくれた。

 リンは自他ともに認める天才魔法使いで、俺にいろいろな魔法を教えてくれた。

 ケンはパーティーのリーダー! 今後の方針をパパっと決めて、物怖じしない立派なリーダーだった。

 リキはパーティーの縁の下の力持ち。積極的に俺に指導してくれることはなかったけれど、怪我のケアとか、俺の休憩中、俺を見守ってくれてたりとか。そういう細かな気配りができる優しいやつだった……。

 シュンは……。多分、俺が前世の頃も合わせて、一番仲良くなれた友達だと思う。思い返してみればとても短い間だけだったけれど……、俺にいつも勇気を与えてくれた。シュンからの唯一の貰い物である短刀は、今も俺の身を守ってくれている。そろそろ刃先も錆びてきたから、ちゃんと研がなければ。


 そして、俺が一人でもレベル上げができるようになった時、事件が起きた。


 それは、魔王軍幹部の一人・ビアスにシュンが命を狙われたことだ。

 悲劇は一瞬だった。一瞬でシュンが死んだ。

 その後俺は、《蘇生魔法》が使えるジジイのもとに一生懸命シュンを担いで運んだんだけれど、結局、シュンは助からなかった。

 俺とシュンを逃がすために時間を稼いでくれていたリンとリキも、後を追うようにしてこの世を去った。唯一、ケンだけは生還したんだけれど、愛用の大剣も真っ二つに折られて、廃人みたいになったケンは、一人で町を旅立った。今はどうしているのだろう。元気でいてくれると嬉しいが……。


 その後、すぐに御月が町の領主に攫われた。どうも前から、可愛くて清楚な御月を気にかけていたらしく、俺は、御月が領主に犯される寸前のところで、御月をなんとか助け出すことができた。


 でもすぐに事態は急変した。なんと領主の息子、クラマ・マクハリは魔王軍幹部の一人だったのだ。俺はクラマから一年前、この町に起こった出来事を聞いた。

 どうも御月が町で一人きりだったのも、シュンを“勇者”と呼ぶのも、すべてはクラマが原因だったらしい。詳細は省くけれど、そのあと俺はクラマに殺されそうになった。けれど俺はクラマに殺されるすんでのところで、ジジイに助けられる。しかし、助けに来てくれたジジイの姿は、見るも無残な姿になっていた。

 理由は明白だった。なんとジジイはあの魔王と対峙していたのだ。


 ――これはこの町に来てから知ったことだが、ジジイは大賢人・シンラと呼ばれ、沢山の魔法使いから尊敬されていたらしい。豊富過ぎる魔法知識に、高いスペック。現存する世界で唯一のLv.90到達者で、今は行方知らずの伝説。その存在は、魔王すらも脅かすと云われていたらしい。


 ……けれど実際、そんなことはなかった。俺の見解が正しければ、ジジイを恐れていたのは魔王本人ではなく、魔王軍幹部の七賢者だけだった。


 ジジイ、もとい大賢人・シンラ、またの名を森羅しんら積和せきかずという超常能力者チート持ちは、魔王軍幹部を三人同時に相手取っても有利を取れると云われていた。確かに実際、ジジイはそんじゃそこらの魔獣や魔物には指先一つで対処できるほどの力を持っていたし、クラマはジジイの使う魔法を見てその身体を震わせていた。

 けれど魔王は、そんなジジイを足蹴にした。己の肉体に傷一つ付けず、ジジイを床に伏せて見せた。簡単に力関係を示すのであれば、


 ジジイ =  魔王軍幹部 × 3

 魔王  >> ジジイ

 魔王  >> 魔王軍幹部 × 3


 だろうか。それほどまでに魔王はずば抜けて強い。

 そして、ジジイは魔王との勝負に敗れて死んだ。


 それからのことは、正直意味がわからなかった。突然魔王は俺のことを『この子は“勇者”』だと言い、『だから殺しちゃダメ』と言った。それに従い、渋々クラマ――幹部名で呼ぶならばペリアンドロス――は、俺を“マクハリの町の勇者”と認定すると、俺を首都・トーキョウへと送り出した。




「大変な道のりを歩んできたのね」


 ――俺が最近、仕事終わりに通い詰めている相席屋の女性バーテンダー・ビャクヤさんは、俺を優しい眼差しで見つめてそう呟いた。


「話を聞いてくれてありがとうございます。……正直、行き詰ってて。誰かに話を聞いてもらえて、少しだけ心が軽くなりました」

「気にしないで。……でも、こんなことするのはあなただけになんだからね」

「えっ……?」


 俺が素っ頓狂な声を上げると、ビャクヤさんは「なんでもない」と言って笑って見せた。




 今は神歴2021年1月中旬。

 俺のレベルはLv.16だった。

 これはまずい。本当にまずい。

 俺は独りきりでは、レベル上げさえままならなかった。時間だけが無残にも過ぎ去っていき、この街に来てからもうすでに3か月以上が経過している。


 俺は焦っていた。

 早く……、早くパーティーメンバーを探さなければ!

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