Lv.13 運命にだって抗えそうだ。
俺たちは領主の城の、その手前。軽く木陰になっている場所で、城の様子を眺めていた。警戒するように眺めるジジイを横目に、俺は流し込むようにして昼食を取る。
「ごほっ、ごほっ。……それで、ジジイは何を確認してるの?」
俺はジジイの行動に、質問を投げかける。
なぜこうも不審者みたいな行動を取らねばならないのか? アポイントとか取れば会えるんじゃないの? というのが俺の持論。つまり、なんでさっさと城に向かわないの? という話。
「(しーっ。見てわからんか。城の守りが厳重過ぎる)」
言われ、見ると、確かに城の周りにはこれでもかというほどの護衛が見張りをしていた。二人一組で行動しないとトイレにも行けないのか! と嘲りたくなるほどに。これほどの人間をどうやって養っているのかというほどの人数が居た。
「確かに……でも、王様の城なんてこんなもんじゃない?」
「……王様? ……確かに言い得て妙だな。まあ正しくは領主だが……、あいつの有様は確かにそれっぽい」
ジジイは静かに笑う。
……しかし、領主相手に「あいつ」とは。確かにジジイと比べたら年下かもしれないが、領主相手にその物言いはまずいだろ。
俺は「やれやれ、全くジジイって奴は」と、ジジイの肩に手を置こうとすると、その手をジジイが掴み取る。
「行くぞ、
「裏手から?」
そんな物騒な。
「まだ領主が黒とは決まってないよ?」
「……はっ?」
ジジイは「なに言ってんだこいつ」という顔をする。――まーたこういう既定事項みたいな……俺にはジジイみたいな特殊スキルはないんだよ!
俺が顔をしかめると、ジジイはハッとして気が付く。
「ああ……、《索敵魔法》を使ってみたんだ。あいつはクロだ。すぐに正体もわかる」
再度「行くぞ」と言って俺の腕を引っ張ると、俺はそれに従って城の裏手口に向かった。
――と思ったが、それは大きな間違いだった。城の裏手口だって、この通り護衛が大量だ。……けれど、少し……というかだいぶ……正面玄関と比べて様相が異なっていた。なぜなら、
「なにあのモンスター……」
守りを固めていたのが、人間ではなく魔物や魔獣の類だったから。
俺は今までに見たこともないような巨体の、それもかなり気持ち悪い身形のそれらに、若干腰を引かせていると、ジジイが俺の手を強く握ってくれる。
……で、それはまあいいんだけど、
「裏手だって入れないじゃん」
てっきり隠密作戦を決行するのだと思っていたのだが、こちらからだってそれが出来そうにはない。けれどジジイ的にはなんの問題もないらしい。
「入れるぞ。むしろこっちの方が入りやすい」
ジジイがにへらと笑う。悪い顔だ。
俺はその顔を見て悟る。
「……本気?」
本気で、こいつらを蹴散らしていくつもりか?
「ああ本気本気。本気と書いて
「ええ……」
俺はなおも躊躇し続けるも、ジジイは止まらない。
「……ねえ、どこか別のルート探さない?」
「なんだ、怖いのか?」
俺は首がもげるほど勢いよく首を盾に振る。
「大丈夫だ。オレが前に出る」
すると、ジジイは余裕の笑みを浮かべて魔物の前へと歩み出る。
門番の魔物が口を開く。
「ココハイマ、タチイリキンシダ。ヨウガアルナラ、アシタニスルンダナ」
存外、丁寧に喋るものだ。俺は少しだけ、魔物というものに感心する。
「へえ、お前喋れたんだ。なに、魔王にでも力を分けてもらったのか?」
「オレハサイショカラシャベレタ」
「何だって?」
「ダカラ、オレハサイショカラシャベレタ!」
「えっ? よく聞き取れないんだけど」
「ダカラ、ウゥーー……ナメヤガッテ!!」
あの煽られ方は、俺だってきつい。魔物は自ら門から離れ、ジジイの方へと走り寄る。
魔物は手に持つ斧を大きく振りかぶると、ジジイに向かって振り下ろした。
「シネ!!」
魔物の渾身の打撃が炸裂する……ことはなかった。ジジイの顔の、拳一個手前。空中で魔物の斧が止まる。
「ンン??」
魔物は首を傾げていた。再度力を込め直すも、どうやったってそれ以上、斧を前に進めることが出来ないらしい。
ジジイは微笑む。
「Lv.45。うん、悪くない。その腕なら、上級冒険者にだってそれなりに張り合えるだろう。さすがは門番に任されていることだけのことはある」
すると、その様子を眺めていた巡回兵たちも各々武器を構え始める。どうやらジジイがただ者ではないことを悟ったらしい。俺もいま知った。ジジイがこれほどまでに頼もしいとは。
「しかし勿体ない。なぜ今の攻撃をただの打撃で終わらせた。《Boost》で強化するとか、やりようはいくらでもあっただろう」
魔物はもう一度、今度はさっきよりも大きく振りかぶろうとした。そう、した。できなかった。サイみたいな顔の魔物は、顔を真っ赤に染めて、その空中に囚われてしまった斧を何とか手元に取り戻そうと頑張っている。
「《空力魔法》……最近作ったんだ。だから名称はまだ仮。けれど実際、効果はあったみたいだな。空気を制御する魔法。
詠唱句がまだ決まっていないんだ。どうだ、一緒に考えてくれないか?」
ジジイがそう優しくサイに問いかけると、突然、サイが大きく吠える。「全員突撃!」の合図らしい。ジジイ目掛けて、周りの魔物や魔獣たちも攻撃を開始する。
しかしジジイは動揺の一つもしない。まるで自分の作った魔法にしか興味のないような……。
俺は思う。これだけ絶大な効力を持つ魔法だ。優に50を超える敵の数に、果たしてジジイの体力は持つのだろうかと。
が、それは杞憂だった。ジジイの作り出した、所謂見えないバリアは、城を守る魔物すべてを相手取っても、余裕のある魔法だった。
「もういいか?」
ジジイは、今も必死になって斧を取り返そうとしているサイに向かって問う。
「もういいか、増援は呼べたか?」
サイは死を悟ったのだろう。大げさに首を振って命を乞う。
「その様子なら心配はなさそうだ。これでようやくオレの作戦が実行できる」
ジジイは指をパチンと一回鳴らすと、今度は吸いつかれるようにして、ジジイの周りに魔物たちが集まる。まるでラッピングされたみたいにぎゅうぎゅう詰めで、みな息苦しそうだ。
安全を確認すると、ジジイは俺を呼び寄せる。俺は気になっていたことを質問した。
「それで、作戦って?」
「オレが暴れて、その間に有名がオツキを見つけ出す。
見つけ出したらオレを呼べ。詠唱する魔法は《遭難信号・SOS》」
「遭難信号……S・O・S」
「簡単だろ?」
「うん、むしろわかりやすすぎて……」
「転生者にしか伝わらねえよ」
「……それより、いいのこんな大胆な作戦で?」
「オレの安否が心配か」
「いや、そうじゃなくて……まあ、それも心配だけど。
実際、確かに領主の城に魔物が居たし、どうやら領主はなにか善からぬことを考えているんだろうなってことは確定したけど、
でも実際。本当にこれに領主が関わっているとは限らなくない?」
「それが何か問題か?」
「うーん……なんだろ。確かに魔物を狩ることは、問題ないかもしれないけれど……」
「ああ、領主の断りなしに城内に侵入することか」
「そう、それ!」
俺は自分でも言い表せない思考に、言葉を充ててくれたことに感激する。
「それも全く問題ない。なんせ魔物は人類にとってすべて敵だからな。例えばそれで無断侵入の罪に問われるようなら、
『いえ、どうしても領主殿をお守りしたく存じまして! 何卒無礼があったことをお許しください!』
とでも言えば、解決するだろ」
うーん……そんなものか?
「なんだ、そんなに自分の身の保障が大事か? ならお前にオツキは救えないな。
自分の身を危険に冒してでも、オツキを助け出す気概を見せろ!」
そう言って、ジジイは俺の背中を強く叩く。
と、そんなこんなをしていた時、不意にサイが、何とかと言った具合にジジイに質問した。
「オマエ、ナニモノダ」
最後に自分を殺す者の名でも覚えておこうということか。俺はその問いに、ジジイはどうやって答えるのだろうと、ジジイを仰ぎ見る。ジジイはふっと笑う。
「よく聞いてくれた。教えてやるよ、死に土産だ。
オレの名前は
魔王を脅かす大賢人にして、世界で唯一Lv.90に達する者。
聞いて驚け。今のオレのレベルはLv.95。
光栄に思え。レベルが倍以上も違う相手と戦えたことに。
滅多にない経験だ。生涯の誇りとするがいい。
そんなお前たちにサービスだ。
今日はオレの魔法で、トップ10に入る大技を見せてやる」
ジジイは拳を突き上げる。
「《多重同時詠唱:SMASH》」
途端、ジジイの後方から強い
その風に触れた瞬間、魔物たちは塵へと化してしまった。
血しぶきすら舞わず、まるで最初からそこにその魔物たちは存在していなかったかのように。森に反響した魔物たちの悲鳴だけが、彼らがそこに存在していたことを示す手がかり。
――“気化した魂”はどうした?
俺が辺りを確認するも、どこにもそれらしいものは落ちていない。ジジイが言った。
「魂すら切り裂く魔法。それがこの《SMASH》。
《強襲・乗算・全力・射撃・螺旋魔法》を詠唱省略したもので、詠唱句は《Storm Multiplication Amain Shot Helix》。
ふざけても真似しようとするなよ。
今の有名じゃあ、一瞬で体力が無くなって床に伏す」
俺はジジイの繰り出した凄過ぎる魔法に呆気に取られて動けなくなってしまう。けれどジジイは何でもないみたいな顔をして「ほれ、行くぞ」と俺の手を引く。
俺たちは無事、領主の城内に侵入した。
俺たちは二手に分かれ、俺がオツキの探索、ジジイが敵の殲滅、を中心に行動する。一応、ジジイもオツキを探しながら闊歩するらしい。
いざ行かんと歩き出すと、俺は振り返ることなく進み続ける。
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