Lv.10 俺の力は遠く及ばない。(後編)
一撃でシュンが死んだ。
「……よし。アリーナ、君はシュンを抱えて、一人で町まで帰るんだ」
俺が動揺していたところに、努めて冷静になったケンが指示を出す。
「一人って……、ケンたちはどうするのさ?」
「あたしたちが……足止めするってこと」
「でも……」シュンでも一撃で殺されたのに、と言おうとして、俺はリンの震える腕を見た。その先に握られた身の丈ほどの杖は小刻みに揺れ、今すぐにでもこの場から逃げ出したいのだという本音が露出している。
「気にするな。俺たちも、こいつと本気で戦おうとしてるんじゃない。あくまで、アリーナが逃げ切るまでの時間を稼ぐだけだ。
……たしか、神父さんの《蘇生魔法》は一時間以内なら確実に成功するって言ってたよな。だからアリーナ。先に戻って、神父さんにシュンを蘇生させてもらってくれ。
大丈夫だ。俺たちは死なない。だからアリーナは、確実にシュンを生き返らせてくれ」
ケンが尻餅をついた俺を抱え上げると、「頼んだぞ」と耳打ちして、俺に「《強化魔法・Boost》」を掛ける。
するとリンが、シュンが助かることを見出したケンに少しだけ希望の光を見つけたのだろう、俺の切れかかった《俊足魔法》を再度掛け直してくれる。
俺は
俺が気合いを入れるために息を大きく吐くと、最後にリキが、気持ち程度の《幸運魔法》を掛けてくれる。これで足を躓くこともなくなった。
「さあ行け!」
ケンの上げた大声が、戦いの再開を合図していた。
第二ラウンド。戦いのゴングが鳴り響く。
――なんて……、
ケンたちと別れてから、俺が走り出してから、ちょうど十分が経過しただろうという頃、俺に掛かっていたすべての魔法が解けていた。
単に距離が離れすぎたのかもしれないし、普通に効力が切れたのかもしれない。詳しいことは俺にはわからないけれど、とにかく俺が受けていたすべての恩恵が無くなってしまった。
急激に重くなったシュンの身体は、俺の小さな肉体では支えきれない。よろめきながら膝を付くも、俺はなんとか立ち上がる。
約束したから。
そしてこれは、俺が任せられた大事な仕事。
負けてはいけないし、決して諦めてはいけない。
どうせ蘇生した際には傷もすべて塞がるのだ。だから俺は、シュンを引きづって運ぶことにする。
……が、それでも町までの距離はなかなか縮まらない。
傾いた日は落ちかけ、ちょうど一時間、シュンが蘇生できるタイムリミットを迎えた頃には、日は沈み切るだろう。
俺は明確な期限を見つけたことで、再度、全身に力がこもる。
そして、俺は町の入口まで辿り着く。だが、教会まではまだ遠い。既に体力は空になり、俺は強烈な眠気に襲われていた。
だが、ここで倒れるわけには行かない。俺は進み続ける。
日の入りまであとちょっと。
すると、そこに家の手伝いをしていたオツキが現れる。俺の尋常ならざる姿に困惑していた。
「大丈夫、アリーナ?」
心配そうに駆け寄るオツキに、俺はいま出せる最大限の声量で、オツキにお願いする。
「ジジイを……! シュンが……!」
言うと、オツキは俺が抱えてきた大きな荷物の正体に気が付いたらしい。
慌てた様子でオツキは「わかった」と答えると、店のエプロンを着たまま、教会に向かって走り出す。
俺もできるだけ教会に近づいておこうと、這うようにして、シュンを引っ張りながら進む。
急激に辺りが暗くなる。街灯に光が点き始め、町は夜の雰囲気へと変わっていた。
俺は焦る、まだジジイは来ないのか……。
完全に日が沈み切ったころ、ジジイはオツキの後を追って現れた。
瞬時に状況を理解したらしいジジイは、膝を付き、シュンに向かって《蘇生魔法》を掛け始める。
「《蘇生魔法・Resuscitation》」
俺はその日、初めてジジイが魔法を使っているところを見た。
ジジイの使う魔法は特殊で、俺が見てきたどんな魔法よりも神秘的だった。
シュンの全身に、大きく温かみのあるエメラルド色の光が広がる。その光は、まるで森の妖精たちが住まう世界のような、そんな空気感が漂っていた。
しかし、すぐにその光は小さく萎んでしまう。まるで息絶えたシュンに呼応するかのように、その光は元気を無くして消え失せる。
「《強化蘇生魔法・Boost Resuscitation》」
すると、ジジイは詠唱内容を変えて、もう一度、蘇生魔法を施す。
けれど、シュンは目覚めない。
ジジイは腕を捲る。
「《神聖魔法・加算・強化蘇生魔法:The sacred Add Boost Resuscitation》」
……けれど、シュンは目覚めない。
ジジイは額の汗を拭うと、大きく息を吐き、次の魔法を試みる――
あれからどれくらいの時間が過ぎただろうか。
結局、シュンが目覚めることはなかった。
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