Lv.3 俺のステータスは異常だ。
朝を昼に迎えるのが、俺という人間なのだけれども、今日という日は朝早くから起きていた。異世界生活を始めて、健康的な生活習慣を心がけようとしての行動ではないことが、唯一の俺らしいところだろうか。
年寄は朝が早い。
ジジイの寝起きが、この町のモーニングコールとなる異常なこの街は、今日も朝からきびきびと活気だっていた。
そんな町(表記ゆれ)に住む俺は――
っと、自己紹介がまだだったな。俺の名前はアリーナ。
ひょんなことから異世界に転生して来てしまった俺は、転生直後、強い衝撃に襲われる。そのまま息絶えそうになっていたところをジジイ、もとい、じーじという修道士(?)の手によって、命を繋ぎとめられた俺は、己を鍛え、来るべき魔王討伐に向けてレベルを上げるため、今はせっせと教会の掃除をしている。
今現在、一文無しの俺に職業選択の自由はないのだ!
初めの内こそ、ジジイとは方向性の違いから、顔を見合わせるたびに喧嘩の絶えない日々を送っていたけれども、俺はそんなじーじ(表記ゆれ)でも、本当は感謝しているんだぜ(これ、ジジイには内緒な)。
ここに来てからいろいろあったけれども、俺はやっぱり転生者。
あれもこれもし放題なウフフなチートで、今ではLv.80。魔界王討伐もそろそろなんじゃないかって巷では噂されているらしい(行きつけの喫茶店の美少女……、美少女……アイドル! のア、アイ……アンスリウムちゃんに教えてもらったんだ! どうやらあの子、俺に気があるらしいんだけど、この話はお前と俺だけの秘密な)。
そんで、えー……大体2~3年? 経った今は絶賛冬祭り中で……魔女(表記ゆれ)も休暇中だから、首を取るなら今じゃね? っとアークプリーストのアックアちゃんがイケイケゴーゴーに俺を誘ってて……。そんで、ア、アーク、プ、プリ、プリンセスのシンデレラちゃんは実は俺に気があって……あれ? そうだったっけ――
――――ッタ。
拳で思いっきり殴られた。
「いつまで寝てる。もう昼だぞ」
はいはい。わかってます。俺はそんなにできた子じゃありませんよ。
俺の寝室となった屋根裏部屋で、俺がのそのそと修道服に着替え始めていると、じーじが机代わりの木箱の上に置かれた、小さな手帳を指差す。
「おい。転生録をつけてないのか」
おっと忘れてた。
「書いてから降りてこい」
了解です。
ということで、さっきのくだらないなんちゃってサクセスチートストーリーは置いといて、じっちゃん(表記ゆれ)に言われた通り、俺は自分がLv.3になるまでに起こった出来事を、一通り日記帳にまとめておくことにする。
まずはこの日記を書いている経緯について。
じーじ、もとい、ファーザーは俺の何を見破ったのかは知らないけれど、俺を転生者=前世の記憶を持つもの(いや、ほとんどないけどね)と決めつけ、それに相応しい男にしてやるぞと息巻いた。
のはいいものの、俺にはレベルがねえ、マネーがねえ、名前も記憶もたっぱもねえと、今すぐにはどうしたって魔王討伐には行けなさそうな、貧弱な男だったので、今はレベル上げと、教会に住込みで小銭稼ぎをしているところだ。
ようやく昨日、Lv.3に上がり「まあ教会周りを箒で掃除するくらいはできるだろう」の許しを頂いたところだ。つまり今日からようやく、教会以外(訂正:教会周辺)の地を踏めるということである。
それに伴い、転生者の心得其の一『「転生録」をつけろ!』も始まったということだろう。まあ要するに、ようやく始まったのだ。俺の異世界生活は。
とはいえ、実は異世界転生異世界転生言いつつ、俺はそれの重大な要素と出会っていない。
そう“チート”だ。
てっきり俺は、ファーザーが俺を転生者だと見破った根拠は、そんな一般人には持ちえない超
というかそもそも論。なぜ俺はこんなにもファーザーから過保護に扱われているのかということだ。(言動は全くそれに該当しないけれども、しかし俺の身体に対する保護は異常だ)
ファーザー曰く、「お前のステータスは異常に低い」ということ。
どのくらい低いのかと問われれば、この世界の住人の誰よりも、何なら生まれたばかりの赤ん坊よりも低いのだという。
はぁ? だろう。ほんと俺もはぁ? って感じ。
いや俺普通に会話できるし、立ち上がって、ひとりでトイレに行くことだってできるのに。それでも俺はそこらの子供よりもステータスが劣るようなのだ。
どうもステータスというものは、数値として目に見えるものだけではないらしく、俺がトイレに行ったり、箒で掃除をしたりとか、そういうものとは全く関係ないらしい。なら俺をこんなにも過保護に扱う必要はないはずだが――実際、俺はこの一週間、教会の外に出ることを禁じられ、階段の上り下りでさえ、ファーザーの付き添いがなければ行わさせてもらえなかった。(いや、普通逆だろお爺ちゃん!)
ステータスは自分以外のものと干渉した時、必要になる数値。
そんなようなことを言っていた気がする。
だから、外に出させてもらえない理由は、俺がこけて膝を擦りむいただけでも死んでしまうかもしれない、低すぎるステータスを気遣ってのことだろう。
納得はいかないが、今はそういうことにしておく。だってお外の世界は危険がいっぱいだものね(きゅぴリン♡)。
……はい。
それで、もうこれくらいしか書くことないけど……あっ、どうせなら実際の数値でも記録しておくか。
現在のレベルはLv.3。ステータスはオール3(なんか評定みたいだな)。一般的に、Lv.3ならステータスは9前後あるらしいので、俺はその3分の一しかないということである。
また、レベルは成人を迎えるまでは多少個人差はあれど、ほぼ年齢と同じであるようなので、俺は事実上、3歳であるともいえる。まあ一週間でレベルを3まで上げている人間は、果たして一週間で1歳から3歳に上がるか? と聞かれたら答えは明白なので、きっと俺の年齢は高校生辺りだろう。この世界、鏡がないからまだ自分の顔を見れてないのよね。
あ、そうだ! どうして無限転生が終わったのかも記しておかねばならない。
一言でいえば、俺の転生先が良かった。この教会の目の前で死んだ。そして死者を蘇生させられるファーザーの手によって、俺は蘇生した。
こうやって文字に起こしてみると、やっぱりあの爺さんイカれてるよな。なんでただの教会の神父が蘇生魔法を使えるんだよって。ドラ○エ的なノリ? あんまりそのゲームのこと知らないからなんとも言えないけれど。
で、その後はベッドで目が覚めて、記憶が混濁して……そうそう。俺、ある言葉をファーザーと一緒に克服しようと努力してるんだった。だから今日の日記のタイトルはその言葉にしよう。まああれ以来、発狂はしてないけどね。
神歴2020年8月10日
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